普通の企業に勤めるビジネスパーソンたちに比べて、自由に入ったり辞めたりできる点が、ホストクラブやキャバクラ、オトナのお店など夜業界の魅力のひとつでしょう。しかしそんな夜業界でも、厳しいクビ制度があるのはあまり知られていません。夜の世界は何をやっても許されるだとか、軽い注意程度で済むなんて大きな間違いです。実はちょっとしたことや理不尽な理由で退店を通告され、最悪の場合はグループ全体や、その繋がりがある店舗全てから出入り禁止になることもあります。
これは、セクシー業界におけるプロダクションにも同じことがいえます。クビや出禁になる猛者は歓楽街のどこかで毎日のように現れるので、トラブル経験者に当時の話と現在の様子を聞きました。
■不義理を働いたら即出禁!
夜職界隈における不義理とは、他キャストのお客を奪う「爆弾行為」や、店内ルール(契約通りの勤務や退店相談など)を守らないなどを指し、意外と“タブー”が多いもの。暗黙の了解的なルールも多く、人間としての常識プラス業界の“アタリマエ”をどちらも守らねばなりません。
しかし困ったことにナイトワーカーは、基本ができない人が多いのです。頭ではダメと分かっていながらも不義理を働き、各店舗からNGを喰らった経験を持つアリスさん(仮名)に出会いました。
彼女は自称社会不適合者であり、もともと職場を無断で辞める癖がついていたとか。仕事が嫌になると欠勤を繰り返してしまい、お店も最初は気を遣ってくれてはいたものの、どうも頑張りが続きません。
「お店も優しくて、私のメンタルを優先してくれてたんですけど、1回ダメになると自暴自棄になってしまい……。遂に、可愛がってくれてたお姉さんとの同伴をブッチして、そのまま飛んじゃったんです。そしたら次に職場を探す際、在籍していた店と、その仲良しの店舗もぜんぶ出禁になってた。スカウトに“面接受け入れ不可です”って言われてから気づいたんですよ」
アリスさんを可愛がっていたお姉さんキャストはグループの看板であり、温和な人で有名だったそう。注意されても勤怠が治らず、おまけに性格の良い人気者を怒らせたとのことで彼女は即座に要注意人物と認定されてしまいました。
見事なまでに旧在籍グループから、周辺の店舗まで完全出禁。行く場所を失い「これならちゃんと働けばよかった」と激しく後悔をしているそうです。
■理不尽すぎるクビ!原因は古株キャストとのバトル?
先ほどのように、お姉さんを怒らせたのが原因で立場が不利になるケースは、夜の世界でよく耳にする話。売り上げを持つ古株にお店を去られると困りますし、「昔からのキャストに逆らえない」とオーナーや黒服が怖気づく情けない例もあるにはあります。
「古株キャストと険悪になり、後から入ってきた私が悪いみたいな感じになりました。黒服も古株にビビってるし、最後は濡れ衣を着せられてクビを言い渡されましたよ。都会ではなくローカル店舗なのですぐ街中に噂が回ってしまい、マジ最悪でした」
そう語る若手キャストのアヤノさん(仮名)は、理不尽な理由でクビとなり、噂が流れたせいで他店の面接さえも行きづらい状況に……。職場を失って困り果ててしまいました。
「でも、後に隣町からの新店舗から声が掛かったんですよ。そこのオーナーが私と仲の良い指名客と知り合いで、お客さん伝いで入店できました」
噂や評判を気にせず、彼女の頑張りを純粋に評価した新店舗に拾われてセーフ。なんとか首の皮が一枚繋がったものの、このように納得がいかない理由で仕事が無くなるのが普通とされる夜職は本当に怖いですよね。
おまけに夜の街はどこか「村」のような窮屈さがありますので、アヤノさんは運が悪ければ永久追放だったかもしれません。
■大手が出禁なら中小もダメ?方向転換を余儀なくされることも…
水商売は狭い世界で成り立つため、「あっちもダメだとこっちもダメになる」状態が発生するもの。ましてや芸能系になると権力を持つプロダクションが存在し、敵に回せば活動終了です。
SNSを炎上させ、ウラ事情を情報をぽろりと漏らしたり、挙げ句の果てには現場を飛ばすなど、多くのタブーに触れたミミさん(仮名)は大手プロダクションを追放。ご自身の行いを反省し、他社へ面接へ行ったものの……不合格を言い渡されました。
「デビュー後だいぶ暴れてしまって(笑)心を入れ替えて頑張ろう!と思い、他社へ面接に行ったけど、ウチではちょっとね……なんて言われてしまいました。一応ビデオの売り上げは持っていたんですけどね。他に関しては面接さえも拒否られ、業界に残るのは無理だと悟りました」
素行が悪いと瞬く間に噂が広がり、事実上の「全体出禁」状態へと陥るためセクシー業界の情報網は侮れません。ミミさんは現在、夜のお仕事をしながら活動フィールドを同人に移すか悩み中。
「適正ビデオの方に出たいですけど、希望は壊滅的。同人に参入する道を考えてますけど、今までプロダクション頼りだったから自分1人で動くのって不安です。こうなるくらいなら、おとなしくしとけばよかった」
ミミさんの場合「自分で自分の首を絞めた」点は否めませんが、ビデオ業界は違反者に対する罰則が厳しい世界。下手すると歓楽街よりシビアですから、一度や二度のしくじりが命取りになることもかなり多いんですよ……!
社会保険や厚生年金もなく、ただお店と契約を交わしただけの個人事業主であるキャストや女優ですから、何かが起きれば簡単に切り捨てられます。夜職特有の保証されない恐ろしさ、そして一般常識が通用しないところが露呈する部分と言えるでしょう。
「昼職に比べて緩いから」と甘い考えで飛び込み、上記のような体験を経てクビになる人は決して珍しくありません。やはり高収入や自由さの代償は、とても大きいということですね。
◆たかなし亜妖(たかなし・あや)元セクシー女優のシナリオライター・フリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ゲーム会社のシナリオ担当をしながらライターとしての修業を積み、のちに独立。現在は企画系ライターとしてあらゆるメディアで活躍中。