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中條聖子さんが創作した「森のかんづめ」と、全国から届いたお礼状。(右から)姉鉃子さん、父秀信さん、母恵子さん=大阪府寝屋川市(撮影・斎藤雅志)
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中條聖子さんが創作した「森のかんづめ」と、全国から届いたお礼状。(右から)姉鉃子さん、父秀信さん、母恵子さん=大阪府寝屋川市(撮影・斎藤雅志)

 阪神・淡路大震災で亡くなった神戸市東灘区の内科医中條(ちゅうじょう)聖子さん=当時(29)=が創作した童話がある。「森のかんづめ」。人と比べるのでなく、本当の幸せに気付こう-。そんなメッセージが込められた作品が、姉らの手で東日本大震災の後に再出版され、全国各地で反響を呼んでいる。

(上田勇紀)

 聖子さんは神戸大医学部付属病院に勤務。幼いころから物を書くこと、読むことが大好きで、医師と作家の「二足のわらじ」を目指していた。東灘区魚崎中町で家族と暮らす自宅の部屋には、大きな本棚が二つ。童話やファンタジーなどがぎっしり詰まっていた。

 聖子さんは激震で倒れてきた本棚の下敷きになった。病院に運ばれたが手遅れで、父秀信さん(87)はあきらめきれずに心臓マッサージを繰り返した。

 「森のかんづめ」の原稿は震災翌年、姉鉃子(てつこ)さん(55)が遺品整理中に見つけた。1991年から3年間勤務した加西市立加西病院時代に書かれたようだ。鉃子さんは「あの子の優しさがあふれている。懸命に治療しても患者さんが亡くなる医療の現場で、少しでもほっとするような物語を届けたかったのでは」と話す。童話は出版社エピックから97年1月に発行された。

 知人らに配った後は品切れになっていたが、2012年、山口県の紙人形劇団から「題材にしたい」と依頼があったのを機に再出版を決意。東日本大震災の被災地でも読んでほしいと、13年1月17日にエピックが2300部を出版した。岩手、宮城、福島県の小学校1292校と、全国の児童養護施設589施設に贈られた。

 予想以上の反響があり、直後から鉃子さんのもとに感想文やお礼状が届いた。児童や親と暮らせない子どもからの手紙だった。エピックには東北や関東など全国から注文が続いた。亡くなって19年。聖子さんの夢が花開いた。母恵子さん(77)は「聖ちゃんの生きた証しを知ってもらえた」と喜ぶ。

 大阪府寝屋川市で内科皮膚科を開業している鉃子さん。診療所の待合室にこの童話を置き、診察室には白衣の遺影を飾っている。「難しい診療に直面したときには写真を見る。妹の笑顔を見ると、一緒に診療してくれているんだ、と思う」

    ◇

 「森のかんづめ」は神戸市出身のイラストレーター三浦美代子さんが絵を描いた。神戸市中央区二宮町1の3の2の出版社「エピック」から発行。1470円。エピックTEL078・241・7561

【全国から寄せられた感想文(一部抜粋)】

森のかんづめを読んで森のくうきがとてもおいしいことを知りました。今まで読んだ本の中でいちばんいい本だと思っています(福島県郡山市立小原田小学校2年生)

私は小さな国は大きさは小さいけど、人々の心や森のすばらしさは大きい物なんじゃないかと思いました(宮城県大和町立吉田小学校6年生)

小さなくにの王さまがとてもたのしそうだと思いました(愛知県尾張旭市の児童養護施設の小学3年生)

【童話「森のかんづめ」】

森の小さな国の王さまはある日、大きな国に招待され、大きな建物をうらやむ。そこで目にした地図に小さな国はなかった。王さまは自国の資源の乏しさを嘆き、開発を進めるか迷う。だが人々の助言で森の素晴らしさに気付く。森の空気を詰めた缶詰を作って配ると「幸せな気持ちになる」と評判に。小さな国は森を守りながら有名になり、地図に載る。

2014/1/16
 

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