いのちをめぐる物語
「生きる時間が限られているなら、どう過ごしたい?」「大切にしたいことは?」-。人生の最終段階を迎えた時、本人の希望に沿った治療やケアが受けられるよう、事前に家族や友人、医療・介護従事者らと話し合っておく。それが「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」だ。高齢社会が進展する中、厚生労働省はACPの愛称を「人生会議」と決め、ロゴマークを作って普及と啓発に力を入れる。厚労省のホームページのパンフレットをもとに、きょうから始められるACPを紹介したい。(中島摩子)
パンフレットは、これまで先駆的に取り組んできた神戸大医学部付属病院緩和支持治療科の木澤義之特命教授が編集した。記入式で、ダウンロードすれば、誰でも実践できる。体調に応じてステップ「1」から「5」までの5段階に分け、話し合う内容の例を紹介している。
健康な時に始めるのが、ステップ「1」と「2」だ。受けたい治療や、自分が考えを伝えられなくなった時に代理決定者となる「信頼できる家族や友人」などについて話し合う。
ステップ「3」以降は、闘病生活に入り「人生の最終段階を自分のことと考える時期」に話し合う例を示す。余命を知りたいか、延命を最も重視するのか快適さを重視するのか、どこで治療を受けたいか、などの項目が並ぶ。
厚労省がACPの啓発に力を入れる理由の一つが、2012年に内閣府が実施した「高齢者の健康に関する意識調査」の結果と現実とのギャップだ。
意識調査では55%が自宅での最期を希望していた。これに対し、17年の人口動態調査では73%が病院で亡くなり、「自宅」は13%にとどまった。理想と現実の差は大きく、政府の骨太の方針(18年)には「本人の意思を関係者が随時確認できる仕組みの構築を推進する」と記された。
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5月下旬、神戸大医学部の木澤特命教授は、神戸市内で開かれた「人生会議研修会」で講演し、「価値観を共有するため、繰り返し話し合うことが重要」と語った。
この中で木澤特命教授は自身の苦い経験を披露。「縁起でもない話をしてはいけないと躊躇(ちゅうちょ)しているうちに月日がたち、次に患者に会った時はコミュニケーションを取れなかった」と振り返った。終末期には約7割の人が、治療やケアについて自分で意思決定できなくなる、というデータがあるという。
また、「緊急の状態になった時は一切の生命維持治療を拒否する」と書いた紙を持った80代男性が救急搬送されてきた際に、家族が治療を希望した事例などを紹介。「ただ紙に書いておいても意味がない。話し合っておかないと現実にならない」とし、「なぜその選択をするのかという患者の価値観を周囲が理解し、共有することが大切で、繰り返し話し合うプロセスが重要だ」と語った。
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