いのちをめぐる物語
自身の死生観に影響を与えた出来事を、全世代に自由回答で尋ねた。
多くの人が家族の死を挙げた。父親を自宅でみとった神戸市北区の60代女性は「父の意思を尊重して、人工呼吸器をつけず、帰宅5日後に亡くなった。父の生きる力を家族で見守った5日間だった」と振り返る。「父の孤独死」と記した神戸市中央区の30代男性は「親が一人暮らしだと毎日訪問するわけにもいかず、急死しても気づかない」。
高齢者施設や病院で働き、死に接する機会が多い人も回答を寄せた。看護師として働く小野市の30代女性は「自分より若い人たちが家族や恋人を思い、心残りがある中亡くなる姿を見て、後悔だけはしたくないと感じた」。さまざまなみとりに立ち会った丹波市の40代女性は「その人の生き方や家族との関わり方で、人生の最後は大きく違う」と指摘した。
世代を問わず「阪神・淡路大震災」と記した人も目立った。姫路市の70代男性は「多くの遺体を目にして人生観が変わった。人のため、世間のために頑張ろうと思った」とつづった。
◇ ◇
<自由記述から>
【高砂市の30代女性】 昨年に夫の祖母が亡くなった。最後まで自分のことは自分でする頑張り屋だった。亡くなる前日、私の子どもとハイタッチをして、布団に入り、そのまま亡くなった。誰にも迷惑を掛けなかった。
【神戸市灘区の90歳以上の男性】 妻は亡くなる数日前、私の手をしっかり握って「いつも信頼していた。ありがとう」と言った。体がしんどくても、ちゃんとお礼を言って別れを告げた。これこそが本物の終活だと思う。
【神戸市西区の60代男性】 おやじは40代で糖尿病になって以降、好きな酒をウイスキーに変え、毎晩飲んだ。晩年は入院したが85歳まで飲み続け、89歳まで生きた。何かを犠牲にして、好きなものを楽しむのもありだと思う。
【川西市の30代女性】 同級生が数人、自殺や病気、事件などで亡くなった。彼らの親が、一晩で髪が真っ白になったり、夜のあいだ中おえつしたりする姿を見た。親より先に死ぬのがいちばん親不孝だと知った。
【姫路市の70代女性】 102歳で亡くなった母は、死の1カ月前まで短歌を詠み、少しの介助でトイレや風呂にも入れた。ある日から急にテレビも新聞もいらないと言い、食べることもやめた。潔いあっぱれな最期だった。
【尼崎市の50代女性】 母はだんだんと老い、最後は子どものような言動になったが、残ったものはその人の本質。母の場合は、人を思いやる穏やかな性格と感じた。病院で息を引き取ったが、最後に声を掛け、体をさすった。
【淡路市の70代女性】 夫は胃がんだったが、抗がん剤治療を受けながら自宅で最後までしっかり生きた。自分の生きざまが子どもたちに残す最後のつとめと言っていた。息を引き取ったときの安らかな顔が忘れられない。
【神戸市東灘区の50代女性】 18年間、天井を見続けた母の気持ちは全ては分からない。でも「自分では死ぬこともできない」と話し、最後は「痛い痛い」と言っていた。延命治療は残される者のエゴかもしれない。
【尼崎市の40代女性】 20代のとき、結婚を誓った方が事故で亡くなった。それ以来、後悔しない生き方って何だろうと思い続けている。子どもができ、下の子は生まれつき病気なので、さらに答えは難しくなった。
【丹波市の50代女性】 特別養護老人ホームで働いているが、延命治療は多くの家族、本人が望まない。でも、もっと早く総合病院で検査したらもう少し生きられたと思えるケースもあった。職員の介護の不安も軽減できたと思う。
【神戸市西区の60代女性】 今、抗がん剤治療をしていて死ぬ恐怖を味わっている。完治はないと言われた。生活が大きく変わり、死ぬ覚悟をしなければと毎日憂鬱(ゆううつ)だ。
【兵庫県佐用町の50代男性】 母が認知症になり、今は入所している。会いに行けば「帰りたい」と言うが、それに応えられない自分が情けなくくやしく涙が止まらない。自責の念で会いに行けず、時間だけが過ぎていく。
【神戸市灘区の60代男性】 15年前に車にはねられ、首から上だけでも100針縫うけがをして死にそうになった。ただ、あのまま死んでいても、自分は何も知らないままだったと思う。そんな死に方をしたいなと思っている。
【明石市の50代女性】 27歳の息子が自死をして、絶望とはこういうことだと感じた。警察への対応や葬儀の準備、親戚への説明などいろいろ大変だった。息子に対しても「なぜ?」とずっと考えるが、いまだに答えは出ない。
【神戸市兵庫区の20代男性】 祖母が亡くなったときに考えさせられた。でも決してネガティブではなく、年齢を重ねて体の自由が利かなくなって、それでも一生懸命に生きて最期を迎えるカッコよさを感じた。
◇ ◇
<アンケートの方法>
アンケートは、高年(65歳以上)▽中年(40~64歳)▽若年(39歳以下)-に分けて10~11月に実施。神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」や読者クラブ「ミントクラブ」、紙上などで協力を呼び掛けてインターネット上で行ったほか、高年世代の一部は、地域の健康講座受講者らに用紙を配布。計739人から回答を得た。
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