いのちをめぐる物語
自宅で療養する患者に医師や看護師が24時間対応する「在宅療養支援診療所」(在支診)が全国で根付きつつある。厚生労働省によると、全国では2017年7月時点で1万3412施設に上り、制度化された06年から約4千施設増えた。兵庫県内でも860施設を超える。家での最期を望んでも、自宅で死を迎えられる人は少数にとどまっており、みとりまで携わる医療機関のニーズは高まっている。(田中宏樹)
在支診では医師らが患者からの連絡を深夜や未明でも受け付け、急変時には往診や訪問看護に駆け付ける。24時間いつでも対応できる体制が必要とされる一方、終末期に診療するターミナルケア加算などの診療報酬は手厚く配分される。
厚生労働省は毎年7月時点の施設数をまとめている。それによると、06年に9434施設だったのが、10年には1万2千施設、12年には1万3千施設を超えるまでに増加。近年は高止まり傾向となっている。
神戸新聞社が厚労省近畿厚生局兵庫事務所に情報公開請求したところ、兵庫県内では18年7月時点で862施設だった。県医務課によると、在支診を届け出ていない診療所でも在宅でのみとりはでき、同課の担当者は「在支診に求められる24時間体制はハードルが高い。できる範囲の対応でみとりを支える診療所と在支診との分担が進み、施設数の伸びが落ち着いてきたようだ」と話す。
国の調査によると、55歳以上の約55%が自宅で最期を迎えたいと望むが、17年に自宅で亡くなった人は約17万7千人で、全死亡者の13・2%にとどまる。
在支診の一つで、訪問診療に力を入れる「関本クリニック」(神戸市灘区)の関本雅子理事長(70)は「今後は、高齢化に伴い増加が見込まれる認知症やパーキンソン病などの患者を24時間支えられる在支診も充足させなければならない」と指摘する。
このほか、病床が20床以上ある「在宅療養支援病院」は17年7月時点で全国に1223施設あり、5年間で約480施設増えた。自宅での療養生活に欠かせない訪問看護ステーションも増加傾向が続く。
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終末期を自宅で過ごす患者を訪問診療している兵庫県内の病院や診療所は、県医務課のサイト「兵庫県医療機関情報システム」で検索できる。トップページにある「在宅医療で探す」から「在宅ターミナルケアの対応」を選択し、市町を選ぶと一覧が表示される。最新の情報が反映されていない場合もあり、担当者は「詳しくは各機関に直接問い合わせてほしい」としている。
【在宅療養支援診療所】 在宅医療の拠点として2006年に制度化された。患者には担当医や緊急連絡先、訪問看護の担当者などを知らせ、24時間いつでも対応できる体制が必要。緊急時に検査や入院ができる医療機関の病床を確保するなど要件は厳しいが、往診や終末期の診療報酬が一般の診療所よりも高く設定されている。在宅でみとった患者数を厚生労働省の地方厚生局に年1回報告することも求められる。
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