いのちをめぐる物語
超高齢化による多死社会を迎えつつある中、「死を背負って生きる」と題した市民公開講座がこのほど、神戸・ポートアイランドの神戸国際展示場で開かれた。講師は、日本のホスピスの草分けと言われる「淀川キリスト教病院」(大阪市東淀川区)の名誉ホスピス長、柏木哲夫さん(80)。約2500人のみとりの経験から、「人は生きてきたように死んでいく。生きざまが死にざまに反映する」と話した。(中島摩子)
市民公開講座は、ポートアイランドで開かれた「日本死の臨床研究会」の年次大会の一環で企画された。
柏木さんはまず「死」の捉え方について話し、哲学者の故堀秀彦氏が82歳の時に残した「私が死に近づいているのではなく、死が私に近づいてくる」という言葉や、長州藩士吉田松陰の「死が追いかけてくる」などの言葉を紹介した。
その上で、「私たちは常に死を背負って生きている。1枚の紙の一方が生とすると、裏には死が裏打ちされている。強い風が吹くと、裏返る」と自らの考えを説明。災害が多い日本で、地震や水害で亡くなった人を例に「生の延長に死があると思っていたけれど、現実には死を背負って生きていたと言えるのでは」と話した。
また、会社一筋で生きてきた60代の男性が、定年して「妻と温泉にでも行こう」と考えていた矢先にがんで倒れたり、3人の子どもを育てた58歳の女性が、「下の娘が家を出て、これからはゆっくり」と思っていた矢先に卵巣がんが分かったりしたケースを、“矢先症候群”と呼び、「死を背負っているのが人間の姿」とした。
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ホスピス緩和ケア病棟で、終末期の患者から教えられたこととして、「不平を言いながら生きてきた人は不平を言って死に、周囲に感謝して生きてきた人は感謝を述べて死んでいく。死ぬ間際に、その人の人生が凝縮される」と語った。
ホスピスの役割については、「その人がその人らしい人生を全うするのに寄り添う」と説明。寄り添うには「人間力」が必要とし、聴く力▽共感する力▽受け入れる力▽思いやる力▽理解する力▽耐える力▽引き受ける力▽寛容な力▽存在する力▽ユーモアの力-の10の力を挙げ、「一番、大切なのは聴く力。全身を耳に、耳を心にする」と力を込めた。
また、「良き死をするには、良き生を生きなければならない」と話し、柏木さん自身が思う「良き生」として、感謝する人生▽ユーモアがある人生▽散らす人生-を挙げた。「才能や経験、時間を自分のために使うのは『集める人生』。人のために使うのは『散らす人生』。これまで集めすぎた人は、ちょっと散らしてみては」と呼び掛けた。
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