いのちをめぐる物語
棚田の風景が広がる岡山県美作市上山の集落で、兵庫にゆかりのある医師玉井友里子さん(36)と看護師十時(ととき)奈々さん(44)が住民の健康維持の一役を担っている。標高400メートル前後の山上にある集落で暮らす人たちの生活を支えようと、玉井さんは移住して診療所を開設。十時さんは定期的に足を運び、体調に変化がないかどうかを見守っている。
上山地区は約200人が暮らし、高齢化率は45%。交通の便が悪く、体調が急変しても救急病院への搬送は時間がかかるという。
玉井さんは2009年から4年間、研修医や小児科の医師として兵庫県尼崎市の病院で働いた。13年に美作市の湯郷ファミリークリニックへ移り、休日には上山で移住者が開くカフェを手伝ったり、住民らと農作業で汗を流したりしてきた。
14年、医療機関がなかった上山の集落に、民宿だった建物を改装。湯郷のクリニックなどに勤めながら週に1度、診療所で診察し、通院が難しい高齢者の自宅を訪問する。「ここに住み、住民の一日や一年の過ごし方が想像できるようになり、患者さんへの対応が変わった。お世話になっているこの地区に医療を還元し、住民に幸せに過ごしてもらいたい」とほほ笑む。
一方、看護師の十時さんは17年10月に上山の麓に移住した。神戸市西区の病院や明石市の訪問看護ステーションで約20年間働いた経験を生かし、高齢者らの自宅を訪ねて住民から体調を聞き取り、病気の予防などに尽力する。
住民の元小学校教員、藤原明さん(95)は01年に妻を亡くしてから1人暮らしだ。「十時さんとは普段から家族のように話し、しんどいとか肌がかゆいとかも気軽に言える。不便な場所だけど、安心して住んでいられる」と喜ぶ。
上山では、認知症や老衰などで体が弱ると、周囲に迷惑を掛けないように地区を離れて介護施設などに入所する人が多いという。十時さんは「本人が家にいたいのに施設へ入るのは残念。家で暮らし、家で亡くなるという選択肢を知ってもらい、認知症になっても暮らし続けられる場所にしたい」と話す。(田中宏樹)
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