いのちをめぐる物語
入院したがん患者らの心身の苦痛を和らげる「緩和ケア病棟」が増加の一途をたどっている。NPO法人日本ホスピス緩和ケア協会(事務局・神奈川県)の調べによると、医療制度化された1990年度は全国に5施設だったが、2019年11月時点で431施設に増え続けている。兵庫県内では23施設が患者と家族に寄り添っている。
同協会が、厚生労働省地方厚生局が届け出を受理した緩和ケア病棟の名簿や協会会員(369施設)のデータなどから、90年度以降の施設数や病床数の推移を調査。19年11月時点の病床数は全国で8808という。
緩和ケア病棟は痛みや吐き気、息苦しさなどの不快な症状、精神的な不安を緩和し、患者の生活の質を上げることを目指す。抗がん剤治療は行わない。医師や看護師、薬剤師、理学療法士らがチームで患者を支え、話し相手や花の手入れなどでボランティアが活躍していることも多い。
90年、医療機関に支払われる診療報酬の中に「緩和ケア病棟入院料」が新設され、兵庫では神戸アドベンチスト病院(神戸市北区)が92年に初めて設置した。国のがん対策推進基本計画(07年)でケアの重要性が強調され、患者ニーズの高まりもあり、各地で一気に広がった。
草分けとされる淀川キリスト教病院(大阪市)の名誉ホスピス長、柏木哲夫さん(80)は「終末期の患者は体の痛み、不安やいら立ちなど心の痛み、仕事や家族などに関する社会的な痛み、『なぜ私が?』といった魂の痛みに直面する」とし、「緩和ケア病棟では、それらのトータルな痛みに寄り添うことが求められている」と話す。
各施設はそれぞれにケアの充実を図り、市立芦屋病院(兵庫県芦屋市)はアートセラピー、神戸アドベンチスト病院は人生を振り返って手紙をつづる「ディグニティセラピー」を導入。音楽療法やアロママッサージに取り組んだり、聖職者が常駐したりする施設もある。(中島摩子)
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