いのちをめぐる物語
余命が短くなったとき、大事にしたいことは何? そんな「もしも」を念頭に、人生の締めくくり方を考えるカードゲーム「もしバナゲーム」が人気だ。「痛みがない」「人との温かいつながりがある」「家で最期を迎える」…。カードには誰もが望みそうなことが書かれているが、その中でも譲れないものは-。ゲームを通して自分の価値観や死生観と向き合い、やがて訪れる「その時」を見つめる。(中島摩子)
ゲーム名は「もしもの話」を短縮して付けられた。1人、2人でもできるが、最も広まっているのが4人用ルール。それぞれの手元に5枚ずつカードを配り、中央に5枚を表向きに置く。そして、順番に手札の中から不要なものを選び、中央のカードと交換していく。最後に最も大事な3枚を残し、その理由を口頭で説明し合う。
カードには「家族の負担にならない」「あらかじめ葬儀の準備をしておく」などと書かれたものも。米国で考案され、千葉県の亀田総合病院在宅診療科の大川薫部長(52)らでつくる団体「iACP」が日本語版を作った。2016年に発売すると全国に広がり、兵庫県内でも活用されるようになった。
医療現場では「延命治療を行ったために、本人の苦痛が増えた」などと家族が苦悩することがあり、ゲームには、前もって本人の希望に沿った治療やケアを周囲と話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の必要性を知ってもらう狙いもある。
ACPについては、厚生労働省が「人生会議」という愛称を付け、普及に力を入れる。大川部長は「ゲームの中で、何を大切に思っているのか、自分自身と向き合うことができる。家族が『お父さんはこういうことが大事なのか』と知るきっかけにもなり、実際に(人生の最終段階に)直面したとき、柔軟に対応できる」と意義を話す。
これまでにインターネットなどを通じて全国で約1万7千セット(1セット2千円)を販売。兵庫県内では、終末期やみとりを考える催しや教育現場で使われている。
姫路市在宅医療・介護連携支援センターでは5月に20セットを購入した。ケアマネジャーら専門職の研修会のほか、市民向け講座でも活用。看護師でセンター長の成定(なりさだ)啓子さん(53)は「病気が進むと意思表示ができなくなる。元気なうちに考えることが大切で、カードゲームなら“重たい話”もできる」と話す。
県立尼崎小田高では、看護医療・健康類型2年の授業で取り入れる。生徒からは「最期に対する価値観は人によって違うことがよく分かった」「何を優先し、何を大事に生きていきたいか考えさせられた」などの感想が寄せられたという。
購入などは「iACP」のホームページから。
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