2025年7月6日、大阪・阪急十三駅前で発生した火災。その後、SNSに投稿された「焼け跡に猫がいる」という一文は、1匹の白猫をめぐる「壮絶な21日間」の始まりを告げるものでした。
投稿主は、現場周辺の野良猫の保護活動を行う「大阪さくらねこの会」(@juso_sakuraneko)。彼女たちが向き合ったのは、災害によって家族同然の存在を失いかけた1人の飼い主の想いと、残された猫たちの命でした。
■「2階に猫が…助けてください」 火災翌日、届いた悲痛な連絡
火災の翌日、同会に1本の連絡が入りました。「2階に猫が取り残されているかもしれません」。連絡を寄せたのは、十三で店舗兼自宅に住む女性です。
この飼い主は、もともと13匹の猫を飼育。火災前に移動可能だった7匹は安全な場所へ避難させたものの、火災発生時には6匹の猫が現場に取り残されてしまったといいます。
現場は焼損こそ免れたものの、消火作業によって水浸しになり、天井も一部が破壊されていました。保護団体の代表・原田玲子さんは、警察や関係者に事情を説明し、規制線の中へ立ち入り。薄暗く冷たい水が溜まる室内を歩きながら、猫の痕跡を探しました。
■白い猫「ピポちゃん」は21日後に保護 焼け跡を出入りする姿に涙
保護対象となった6匹のうち、次々に5匹を確保。その中で最も最後まで見つからなかったのが、白く美しい毛並みを持つ猫「ピポちゃん」でした。掌サイズの頃から室内で育てられ、人懐っこい性格から真っ先に見つかると思われていました。
しかし、現実は違いました。火災から10日後、ピポちゃんは現場脇の細い路地で仲間の猫とともに目撃されます。けれど、近づけば逃げ、捕獲器にも入らず……。
「焼け跡に戻っては壁をよじ登る姿を見たとき、心が折れそうになりました」
そう語る原田さん。猫の行動パターンを分析し、複数の捕獲器を日々設置し直す中、火災発生から21日目の夜、ようやくピポちゃんが捕獲器に入ったのです。その瞬間、原田さんはその場に崩れ落ち、涙が止まらなかったといいます。
■まだ戻らぬ1匹「小梅ちゃん」 飼い主の深い後悔と祈り
しかし、まだ1匹──茶トラの「小梅ちゃん」が戻ってきていません。
「13匹の猫は、すべて宝物のような存在でした。取り残された6匹すべてを連れ出せなかったことが悔しくてたまりません」
飼い主の女性は今も、毎日現場周辺を歩き、名前を呼びながら小梅ちゃんを探し続けています。
■火元は隣家ではなく離れた場所 “2度目の火災”に直面した飼い主
実はこの飼い主、2014年にも同じ十三の飲食店街で火災に巻き込まれ、店舗を全焼させています。その経験から、今回は防犯カメラや火元確認、避難経路の確保など、徹底した備えをしていました。
にもかかわらず、離れた場所からの出火により、再び火災の被害を受けることに。
「どれだけ気をつけていても、他人の不始末で全てを失うことがある。悔しくて、言葉にできません」
■「まず人が生き延びること」 災害時、ペットと命を守るための備えとは
大阪さくらねこの会では、災害や事故でペットが迷子になるケースを数多く経験しています。そんな彼女たちが強く訴えるのは、「平時からの備え」の重要性です。
・キャリーやケージに慣れさせる
・マイクロチップの装着
・フード・水・薬の備蓄と持ち出し用バッグの準備
・同行避難・同伴避難の確認
・一時預かり先の確保
「まず人が生き延びなければ、ペットを守ることもできません。火災や急病で救急搬送される際に、ペットが脱走することもあります。だから、備えは“今すぐ”始めてください」
■「あの日、逃してしまった」から「守れた」に変えるために
災害は突然やってきます。そして、大切な命が一瞬で消えてしまうこともある──。
それでも、備えがあれば“守れる命”は増やせます。最後に、原田さんの言葉を紹介します。
「辛いときこそ、ペットの存在は人の心の支えになります。だからこそ、どうか、共に生き延びてください」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)