「お気に入りの器を見つけてにゃ」
「お気に入りの器を見つけてにゃ」

猫の絵付けが施された椀(わん)、皿、マグカップなどの陶器が人気の「うみねこ工房 久峰窯」は、「漢委奴国王印(金印)」が発見されたことで有名な福岡・志賀島にある。陶芸作家のイマハヤシユイさんは2007年から窯業の世界に入り、有田、波佐見で経験を重ね、2019年に独立して同工房を開いた。彼女の作陶に日々、寄り添っているのが黒猫の「マキ」(オス、4歳)だ。「マキを保護したことがきっかけとなり、外で暮らす猫たちのために何かできないか考えるようになった」とイマハヤシさん。マキとの出会いなどについて話を聞いた。

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イマハヤシさん マキと出会ったのは2021年秋のある朝のこと。工房前に置いていたメダカの鉢の水をかえようとしていたら、奥に積んだ薪の間から、生後3、4ヶ月くらいの子猫がふらっと現れ、私の顔を見て「にゃー」って鳴くんです。ガリガリに痩せていて、野良にしては警戒心が全くなく、ひょいと抱きあげても何の抵抗もしませんでした。

工房内でご飯やお水をあげると、お腹がすいていたんでしょう。ガツガツと食べ始めました。病院で診療を受けたところ、特に健康上の問題はありませんでしたが、前脚に噛まれた跡があるとのこと。もしかしたらどこかで他の猫に噛まれて、工房まで逃げてきたのかもしれません。

その前日、友人が飼っている黒猫と接する機会があり、その子がとても性格のいい子だったので、黒猫っていいなあとちょうど思っていたところだったんです。その翌日の出来事だったので、この子はもしかしたらうちにくるべくしてきた運命の子なのではと感じ、家族に迎えることにしました。

食欲旺盛で体重はすぐに増えていきました。工房で私がろくろを回しているとちょっかいを出してきたり、並べていた焼成前の器の上を歩いて足型をつけたり(笑)。私が仕事をしている間、マキは工房で自由気ままに過ごしています。

それまで猫をモチーフにした器は作っていましたが、描いていたのは漫画みたいな猫だったんですよね。でも、マキが私のそばにいつもいてくれるので、モデルとして表情やしぐさなどよく観察できるようになり、猫らしいリアルな猫が描けるようになりました。

年長から中学1年まで3人の娘がいるんですが、マキは4人目の「長男」のような存在ですね。自宅で子どもたちがおままごとをしていたら、そばで寝そべって見守ってくれています。「猫は子どもが苦手」と言われることもありますが、うちは全然大丈夫。ただし、あまりしつこくされると猫パンチが出るときもありますけどね(笑)

マキを迎えたことがきっかけになり、お外で暮らす猫たちのために何かできないかと考えるようになりました。保護猫活動をされている方いわく、外の環境で暮らすということは、猛暑や厳冬、縄張り、食べ物や水の確保など、特に子猫が生き延びていくには想像以上に過酷なんだと。マキもケガをして痩せていましたし、もし私と出会わなければ行き倒れて死んでいたかもしれません。マキと一緒に過ごすうち、マルシェなどのイベントには積極的に参加、出展して、売上の一部を保護猫活動に寄付するようになりました。小さな力でも誰かの役に立てるように。今はそんな思いを込めて日々、土と向き合っています。

イベントは春や秋の過ごしやすい時期に集中することが多く、一人で作っているので、生産が間にあわず、以前だったら出店の申し込みを諦めようかと弱気になる時もあったのですが、今では床にデンと寝転がっているマキを猫吸いして、よしよししていたら元気が出て、不幸な猫を1匹でも減らせるよう頑張ろうと思えるようになりました。

目指しているのは、パッとみて「ああ、これはうみねこ工房さんが作った作品ですね」と猫好きさんらにわかってもらえるような器を作ること。疲れたり嫌なことがあったりしたときでも、器の猫たちをみてほっこりと優しい気持ちになってもらえたら。そんな器をマキと一緒にこれからも届けていきたいと思っています。

【店名】「うみねこ工房 久峰窯」

【住所】福岡県福岡市東区弘2408-45

【インスタグラム】@uminekokoubou

(まいどなニュース特約・西松 宏)