仕事をしている兼業主婦でも、仕事をしていない専業主婦でも、子育てにはそれぞれ苦労が尽きないもの。そんな2人の主婦が抱える悩みに焦点を当てたのが、漫画家のオニハハさんの作品『専業主婦と兼業主婦のお茶会』です。同作がX(旧Twitter)で投稿されると、多くの反響の声が集まりました。
物語は、兼業主婦の睦美と専業主婦のさくらが、互いの子供を連れて久々にカフェで集まるところから始まります。2人は高校の同級生であり子供の年齢も同じという共通点から、仲の良い関係が続いていました。しかし睦美の育休が終わって仕事復帰してから、疎遠になってしまったとさくらが言うと、楽しそうだった雰囲気に緊張感が走ります。
睦美は「育休だから復帰して当たり前じゃん」と笑って返しますが、さくらは「それでもねぇ~半年で復帰するとは思わなかったわよ」と続け、さくらは睦美が復職したことを快く思っていないことが伺えます。さらに「産休育休って働かなくてもお金はいってくるんでしょお?棚からぼたもちだ~」とさくらが言えば、睦美は「当然の権利だから。さくらこそ扶養入ってるなら払うもの払わないんでしょ。ラッキーじゃね」と言葉の小競り合いが続くのでした。
睦美は、自分は職場で必要とされており、仕事と家事育児をしていて大変だとアピールします。その点さくらは、育児と家事に集中できて子供の側にずっといられて羨ましいと睦美は話しますが、それにさくらは笑顔のまま不快感を覚えます。
この睦美の言葉に対して「何も知らないくせに」と心の中でつぶやくさくらの日常は、夫が出産直後から単身赴任でおらず、ワンオペ育児を強いられる過酷な状況でした。身近に夫がいない状況で、さくらは子育ての正解が分からず、自分のせいでわが子に害があったらどうしようと1人で不安を抱えていました。
この状況を打開しようと、子どもを保育園に預けて働こうと試みるも、面接では専業主婦であることで心証が悪く、またさくら自身も働くことに不安を感じてしまったことから上手くできず苦しんでいたのです。
働きたくても働けなかったことにコンプレックスを感じているさくらは、自分を庇いつつも睦美に攻撃をするように「わずかなお金より今の子供との時間の方が大切だと思ったの」と言います。するとこの発言に睦美は「わずかなお金......?」と怒りをあらわにするのでした。
睦美の怒りの原因は、仕事に遅れないように毎朝子供を急かしてしまう罪悪感や、自分が体調不良でも仕事を休めない苦しさ、保育園からの電話で仕事を抜ける時の同僚への配慮など、「仕方ない」「仕事の代わりはいても母の代わりはいないんだから」と睦美は自分を納得させる日々にありました。睦美は自分がフルタイムで働いているがために、子供に習い事もさせられない、子供の可能性を潰しているかもしれないと悩んでいたのです。
本当は仕事を辞めて子供の側にいてあげたいけれど、子供の将来のために貯金が必要なので働き続けていた睦美だからこそ、「わずかなお金」という言葉が許せないのでした。そしてその怒りの勢いで「子供の側にいたいのはみんな同じなんだよっ」と睦美はさくらに怒声をぶつけ、ついに2人は大喧嘩を始めます。
2人の言い合いを止めたのは「ばかぁっ」と喧嘩する2人の子供たちでした。なんと2人の子どもたちは、お互いに自分の母親の方がすごいと喧嘩をしていたのです。その姿を見たさくらと睦美は落ち着きを取り戻し、「今日はごめんね」「もっと家族と向き合わないといけないと気付いた」と言って別れます。
同作のコメント欄には「どっちもやったから分かる」「すげぇ刺さる」「どっちが上とかない」など、多くの声があがっています。そこで同作について作者のオニハハさんに話を聞きました。
■「夫があまり育児や家事に関わってくれない」という声は今でも多い
ーこの作品を描くきっかけを。
SNSで専業主婦と兼業主婦が言い争っているのをよく目にして、どちらの立場の人も少しでも気持ちが軽くなればいいなと思い描きました。
ー兼業主婦と専業主婦、どちらも必死で子育てをして、悩みを抱えている様子がリアルです。
私自身、3人の子育てをしています。夫が忙しくて1人でやることが多かったので、自分の経験を思い出しながら、両方の立場に寄り添って描きました。
ー女性の働き方もですが、夫の理解や育児への関わり方も重要だと感じました。
「夫があまり育児や家事に関わってくれない」という声は今でも多いです。だからこそ今回は、女性視点を中心に描きましたが、夫が協力的だったら専業主婦も兼業主婦もここまで追い詰められなかったと思います。男性側の昔からの考え方も社会も、少しずつ変わっていけたら良いと思います。
ー最終的に2人とも各々の家族と向き合うという結末です。
今回は2人とも、それぞれお互いに嫉妬や罪悪感、葛藤などがぶつかり合う様子を描きました。ですが、お互いに自分の家族や生活と向き合い、今の幸せをどう受け止めていくかでしか解決できない問題なのかなと思い、こんな結末にさせていただきました。ページ数の関係で、ラストが足早になってしまった点は反省しています。
(海川 まこと/漫画収集家)