広大な宇宙に存在する知的生命体は、地球人だけではないはず-。そう信じてやまないオカルト好きのおじさん記者(48)が、ちょうど30年前に兵庫県稲美町の麦畑に現れたミステリーサークルと、その後の騒動をたどった。原因については、未確認飛行物体(UFO)の着陸跡、プラズマ弾性体(火の玉)、竜巻などと論争が巻き起こった。人口約3万人ののどかな町が観光地化するなど一時は大騒ぎになったが、事態は少し意外な形で終息していた。
◇
最初のサークルが現れたのは1991年5月9日。同町森安の麦畑に直径3メートル、2メートル、3メートルの円が1メートル間隔で並んでいるのを、畑を所有する男性が見つけた。同29日には、同じ畑で直径約20メートルの楕円(だえん)形サークルと、周囲に小さな円三つが出現。さらに同31日には、約500メートル南の麦畑にも直径10メートルの円が現れ、サークルは1カ月のうちに大小八つになった。騒ぎを受け、地元の企業「キング醸造」(同町蛸草)は所有していた宣伝用ヘリコプターをわざわざ飛ばし、空撮したという。
当時の神戸新聞記事は、それらの発生前後に「青白い発光物体が飛ぶのを見た」という数人の目撃談を紹介。やはりUFOの仕業か-。期待に胸を膨らませ、うち七つのサークルが現れた麦畑に出向いた。所有者の男性は既に亡くなっており、その息子さんに話を聞くことができた。
サークルについて尋ね始めると、その表情は苦々しいものに変わった。「畑は踏み荒らされ、ごみもたくさん捨てられた。家には取材の電話が殺到し、父が断っていた」と渋い顔。無理もない。短期間に貸し切りバスなどで1万人ともいわれる人が押し寄せたのだ。畑の近くではアイスクリームも売られていたという。
■何が原因で…
付近で聞き込みすると、一連の騒動が町民の記憶に深く刻まれていることが分かった。当時5歳だった女性が覚えているのは、父が「UFOが着陸した跡でできたんや。麦が傷つけられずにきれいに倒れているのがすごい」と興奮気味に話す姿。当時、サークル群にほど近い天満南小学校の3年生だった会社員出原一貴さん(38)=兵庫県加古川市=は「稲美は農地が多くて平らだから、UFOが着陸しやすい。とうとう稲美にもUFOがやって来たと思っていた」と振り返る。
一方、「誰かがみんなに見てもらうため、踏んでたんやと思っていた」(90代女性)との懐疑派も。73歳の女性は「結局、何が原因であれができたか分からずじまいやったね。不思議やなぁ」と話した。
■まちおこし
さらに「稲美町史にも載るほどの騒ぎだったらしい」。そんなうわさを聞き、町役場を訪ねた。だが広報担当職員から「町史を調べたけれど見つかりませんでした」と聞き、がっかり。ただ、記者とのやりとりを聞いていた別の職員が広報誌「広報いなみ」の91年7月号を、少し得意げに広げて持って来てくれた。
表紙には、麦畑に現れたサークルの大きな写真。その上には、底部に付いた三つの黄色い光が特徴的で、「これぞUFO」と思わせてくれるアダムスキー型が描かれているではないか。「宇宙からのメッセージ」「夢とロマンが広がるミステリーサークル」の文言も。そうこなくっちゃ。町も「UFO騒ぎがまちおこしになる」と思ったようだ。
■大槻教授登場
広報いなみ中面の「まちのわだい」と題した特集面では、2ページにわたってサークルを紹介。火の玉研究のパイオニア、大槻義彦早稲田大教授(現名誉教授)が現地を調査したという。教授は、円の中心部に麦の穂が数本倒れずに立っていることなどから「本物のミステリーサークル」と推定したといい、「フィーバーぶりは頂点に達する勢いとなった」とつづられていた。
原因については「竜巻の仕業や。きっとそうや」と自分に言い聞かせるような人がいたことや、「上手にいたずらしたもんや。大変やったやろなあ…」「いたずらでこんなんでけへんなあ」と、本物か否かの賛否両論が展開されていた。
記事で町企画課は「自然科学にめざめるまちづくりなど、まちの活性化につながる施策を検討しています」と高らかに宣言。町民からの情報を募り、サークルの写真を公民館で展示していることも知らせ、まちおこしムードを喚起した。
■揺れる心
町企画課の中堅職員だった大西孝彦さん(65)=稲美町=は「せっかくのミステリーサークルなのだから、まちづくりにつなげたいと思った」と振り返る。その年の9月には大槻教授を講師に招き、「特別教養講座」を開いた。会場の町中央公民館は200席以上が埋まる盛況ぶりで、教授は「火の玉(プラズマ弾性体)が地表との衝突でミステリーサークルを形作る」との持論を展開。町はサークルの写真をあしらったテレホンカードも作った。
そんな中、事の真偽について、大西さんは教授の理論といたずら説との間で心が揺れたという。92年4月には、稲美町のサークル群から西に約800メートル離れた兵庫県加古川市平岡町新在家の休耕田でサークル二つが発見された。だが後に、子どもがいたずらで作ったことが分かった。稲美町のミステリーサークル狂騒曲もそのあおりを受け、まちおこしの機運もしぼんでしまったという。
ただ、同町の大小八つについては「いたずらした」と名乗り出た人はいなかった。当時、加古川署の現場検証でも「麦の倒れ方があまりにも整然としており、いたずらと思われる明確な形跡はない」とされた。
UFOの着陸跡なのか、火の玉なのか。はたまた誰かのいたずらなのか。結論が出ないまま、丸30年が過ぎようとしている。町は現在も発行している町内の名所マップで、渦を巻いて倒れた麦の穂の絵とともに「1991年にミステリーサークルが出現」と紹介。当時の騒動の大きさを垣間見ることができる。(笠原次郎)
■ ■
地元ならではの慣習、かつての珍騒動のその後、変わった地名…。言われてみると気になって仕方ない。そんな「なぜ?」「何?」を、記者が深掘りします。調べてほしいことを募集中。郵送かファクス、メールで連絡先を記し、〒675-0031 加古川市加古川町北在家2311、神戸新聞東播支社編集部「ナゼナニはりま」係(ファクス079・421・1023)まで。toban@kobe-np.co.jp

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