経済的困窮や家族との不和で、生きる意味を見失った時期がある。それでも持ち前の負けん気で屈せず、アニメやゲームなどのキャラになりきる「コスプレイヤー」という生きがいを見つけ、人生を取り戻した。現在は、コスプレ道具も作る看板制作会社「匠（たくみ）工芸」（兵庫県高砂市荒井町日之出町）の副社長兼モデルだ。公務員という異色の前歴を生かし、実務を取り仕切る。

　加古川市内の裕福な家に生まれた。小学５年のとき「機動戦士ガンダム」を見てアニメ好きに。兄に「登場人物のどっちが悪いの？」と尋ねると「悪者はおらんねん」。敵にも人間味がある独自の世界観に魅了され、主人公の宿敵、赤い彗星（すいせい）「シャア・アズナブル」にあこがれた。

　自営業の父が倒れ、中学３年で生活が一変。豪邸を離れ、家族ともけんかが絶えず、「お金の余裕は心の余裕」と知った。人間不信に陥ったが、進学した加古川西高校の担任だけはじっと話を聞いてくれ、癒やされた。何度も考えた自殺を踏みとどまれた。

　２年生の秋、友人とコスプレの催しに初参加した。髪の毛が青いキャラ「初音ミク」に扮（ふん）すると、大勢に声を掛けられた。目立ちたがり屋の性格が刺激され「この道を究めたい」とコスプレの世界へ。

　不和の家族から逃れて独立するため、高校卒業後は加古川市役所に入った。農林水産課などで勤務する傍ら、２０１５、１６年にはコスプレ大会の関西代表に選ばれた。アニメ好きが集う交流会で匠工芸の折井匠社長（４３）と出会い、ガンダム好き同士で意気投合。シャアのコスプレ道具を作ってもらうなどして交流を深め、１７年に入社した。

　「好き」が仕事になった喜びは大きかった。衣装を手作りしてきた蓄積を生かし、テーマパークや劇団向けの服を制作。折井社長とは「いつかハリウッドの衣装や造形を手掛けよう」と誓う。「これからもやりたいことをして生きていく」と語る。（笠原次郎）