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オリックスでスカウトを務める乾絵美さん。「『野球だけは負けたくない』という強い気持ちを持った選手を見つけたい」=大阪市西区
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オリックスでスカウトを務める乾絵美さん。「『野球だけは負けたくない』という強い気持ちを持った選手を見つけたい」=大阪市西区
北京五輪で優勝し、上野由岐子選手(上)を肩車して喜ぶ乾絵美さん=2008年8月21日、中国・北京
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北京五輪で優勝し、上野由岐子選手(上)を肩車して喜ぶ乾絵美さん=2008年8月21日、中国・北京
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オリックスの日本一を祝う看板前でボールを構える乾絵美さん。ソフトボールの現役時代は捕手として活躍した=大阪市西区千代崎3、京セラドーム大阪
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オリックスの日本一を祝う看板前でボールを構える乾絵美さん。ソフトボールの現役時代は捕手として活躍した=大阪市西区千代崎3、京セラドーム大阪
オリックスのマスコット、バファローブル(左)とバファローベルを手に、笑顔を見せる乾絵美さん=大阪市西区千代崎3、京セラドーム大阪前
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オリックスのマスコット、バファローブル(左)とバファローベルを手に、笑顔を見せる乾絵美さん=大阪市西区千代崎3、京セラドーム大阪前

 中国・北京の豊台ソフトボール場は、熱気と歓声が渦巻いていた。

 2008年8月21日、北京五輪ソフトボール決勝の日本対アメリカ戦。米国の最後の打者が三塁ゴロに倒れると、乾絵美(39)=当時(24)=はベンチを飛び出し、マウンドの上野由岐子(40)=当時(26)=を目がけて駆けた。

 上野を中心に歓喜の輪が広がり、選手が人さし指を突き上げる。乾は上野を肩車し、右拳を振りながら「やったー」と叫んだ。

 ベンチのスタッフやスタンドの知人らが涙を流している姿が、目に入った。日本ソフトボール界初の金メダルが、乾の首にもかけられる。その胸に、支えてくれた人たちに恩返しできた感謝の気持ちが広がった。

    

■がむしゃらな野球少年見つけたい 

 乾は09年、所属する企業チーム「ルネサステクノロジ」の主将として、日本リーグなど国内3冠を2年連続で達成したことを機に引退。10年からプロ野球オリックス・バファローズの球団職員として、野球教室での指導や少年野球大会運営などに携わっていた。

 19年12月のことだった。編成部副部長の牧田勝吾(48)から電話を受け、後日、会うことになった。

 約束の日の前日、牧田から再び電話があった。牧田は「いきなり話すと驚かれると思うので」と切り出してから、言った。「一緒にスカウトをやりませんか」

 ソフトボール教室の講師の依頼かと思っていた乾は、頭が真っ白になった。

 翌日、ゼネラルマネジャー(GM)の福良淳一(62)も交え、大阪市の事務所で面会。「世界で感じたことを、スカウティングに生かしてほしい」と言われた。

 乾は野球経験が一切ない。女性スカウトは、過去にもその時にも球界に一人もいなかった。すぐには返事できず、「一度、持ち帰らせてください」と伝えた。

 面会後、日本代表や所属チームの監督として師事した宇津木妙子(69)と宇津木麗華(59)に、電話で相談した。

 「やってみればいいじゃない」。2人とも同じ言葉をかけてくれた。心が軽くなり、背中を押された気がした。電話を切った時には、気持ちは決まっていた。

    ◆

 20年1月のスカウト就任後は関西と静岡県を担当し、2月にはチームの宮崎キャンプに帯同。ブルペンで若手の投球を見るなどし、プロのレベルを体感した。

 先輩スカウトからは、スピードガンの使い方や映像の撮影、編集の仕方などを、一から教えてもらった。

 3月から、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、選抜高校野球大会が中止になるなど、通常の活動ができなくなった。その間は、プロ選手のアマチュア時代の映像を見て、見る目を磨いた。

 初めてのドラフト会議で、オリックスは乾が担当した明石商高の来田涼斗(20)を3位で指名。くしくも乾は、小学6年の来田を、オリックスのジュニアチームで指導していた。指名がかなった時は、思わず「やった」と声が出た。

 現在は中国・四国を担当し、シーズン中は試合観戦などで、各地を飛び回る。

 有力選手の情報や映像は、インターネットで簡単に手に入るが、乾は先入観を持たないことを心がける。実際に見て、打席での雰囲気を感じるなど、自分の感性を大切にする。

 道具を大切に扱っているか、仲間に信頼されているか、チームが苦しい時に力を出せるか-。自分が現役時代、宇津木妙子や宇津木麗華らに教えられ、成長できた経験をスカウティングに生かしている。

 未経験の野球で、しかもプロレベルで選手を評価することには、今でも不安を感じることがある。それでも乾は初の女性スカウトとしての責任を自覚し、「自分が活動することで、今後、他球団に女性スカウトが広がってほしい」と話す。

 「今は何でもスマートにこなす選手が多いが、がむしゃらな『野球小僧』を見つけたい」=敬称略=

【いぬい・えみ】1983年、加古川市生まれ。同市立野口小、中部中などを経て東海学園大中退後、日立&ルネサス高崎(現・ビックカメラ高崎)に進んだ。

    ◇

 五輪や全国大会の優勝、コンクールでの金賞受賞…。かつて大舞台で栄冠に輝き、光を浴びた人たちが、新たなステージに立っている。悩み、もがきながらも挑戦する姿を追った。

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