「生きヘタ?」ニュース
■適応障害について精神科医の小林和さんに聞きました
3月のテーマは「適応障害」です。「精療クリニック小林」(神戸市中央区元町通)院長で、精神科医の小林和さん(83)は適応障害について「全然珍しい病気ではない」とした上で、1人で抱え込まないことや、客観的視点を持つことの大切さを説きます。「自分の人生を見つめ直すきっかけにもなる場合もあります」という小林さんに、詳しく聞きました。
-適応障害の特徴は?
「適応障害は個人の問題ではなく、周りの環境との関係性の問題です。環境から受けるストレスと、本人の耐性力のバランスが崩れた時に症状が出ます。例えば、勤務先にパワハラをする上司がいて適応障害になった場合、環境が変わってストレスの原因がなくなると、症状がピタッとなくなったりします」
「学校を卒業して就職する、あるいは転勤、入学、転校する時は、環境が大きく変わるので、適応障害になりやすいタイミングといえるかもしれません」
-どんな症状ですか?
「眠れないとか、食事が取れないとか、疲れやすいとか…。内科で調べてもどこも悪くなく、心療内科や精神科を受診するケースがあります。他には、手が震えたり、頭痛や腹痛がしたり。出勤や登校しようとすると、動悸(どうき)や吐き気がしたり、乗り物酔いしたりなど、不適応の環境を避けようとする症状もあります」
「1人で抱え込むと、悪化しやすいといえます。相談できる人、サポートしてくれる人の存在が欠かせません。その人とともに、ストレスがある状況を客観的に観察したり、評価したりすることが大切です。例えば、上司との関係で『自分がダメだから』と思い込んでいるなら、周囲が『あの人はああいう人だよ』とか『前はこんなことがあったよ』などと意見する。そういう第三者的視点を持って、自分と周りの関係性を見てみることが、その後の経過を左右すると思います」
-ストレスがある環境との関係をどうすれば?
「心身を休めた後、まずは、自分の特性を知ることが第一です。どういう状況に自分が適応しにくいかが分かれば、それを避ければいいのですが、環境を変えるかどうかは、自分の人生の選択ともいえます。この先、人生をどう生きるか。どう生きたいのか。客観的な視点で相談に乗り、伴走してくれる人とともに考え、納得して決めていく。適応障害は、自分の人生テーマを見直すきっかけになる場合もあります」
「環境を変えない場合は、『○○までやってみて決める』など、期限を設ける方がいいでしょう。身近に相談相手がいないときは、専門家を訪ねてください」
-周囲は?
「適応障害という病名が使われるようになったのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と同じ1980年です。それによって、障害を個人だけの問題にするのではなく、社会や本人に関わる周りがどうすればいいのかを考えるようになってきました」
「職場に適応障害になった人がいるなら、職場に問題があったかどうかを検討します。職場に限らず、学校や家庭が原因の場合もあります。適応障害をきっかけにその環境を見つめ直すことで、『生きやすい関係性』に変わる可能性があると思います」
(聞き手・中島摩子)