「生きヘタ?」ニュース
■発達性協調運動障害について小児科医で武庫川女子大教授の中井昭夫さんに聞きました
5月のテーマは「発達性協調運動障害(DCD)」です。「不器用」「運動が苦手」などと思われやすい特性があるDCDは神経発達障害の一つで、医療や教育関係者の間でもまだ認知度が高くはないそうです。国内で先進的に研究している武庫川女子大学教育総合研究所教授で小児科医の中井昭夫さん(62)に話を聞きました。
-DCDとは。
「不器用、ぶきっちょ、運動音痴などと言われ、悩んでいる子どもたちがいます。一般的に運動というと身体のことと思われがちですが、体の動きをコントロールしているのは『協調』という脳の機能。身体を動かすとき、脳が視覚や触覚などさまざまな感覚を統合し、手足などの動きをコーディネートし、運動の結果に基づいて修正を重ねるということを行っています。この脳機能の発達の極端な問題がDCDです。最新の診断マニュアルでは5~11歳の5~8%が該当するとされ、決して珍しい状態ではありません」
「『協調』は日常のあらゆる動作に関わっていて、DCDにもいろいろなタイプがあります。例えば、細かい手作業が苦手、字が汚い、運動や球技が苦手、よい姿勢が保てない、などがあります」
「特に小学校に入ると、体育の他にも、書字や文具の操作、楽器の演奏、理科の実験、図工や習字など『協調』という脳機能を必要とする場面が増えます。例えば、逆上がりができない、リコーダーが吹けない、字が汚いなどの苦手さは周囲からよく見えてしまいます。DCDの子どもは一生懸命やっていても、脳機能の発達の問題でうまくいかないだけなのに、『練習不足』『ふざけている』と怒られてしまうこともあります。それはとても残酷なことで、自尊感情も大きく傷ついてしまいます」
-どう向き合えば。
「脳科学的な理解に基づいた支援が有効です。『失敗は成功の母』『七転び八起き』などと言いますが、失敗で終わらせない『エラーレスラーニング』が重要。課題を確実に達成できるような段階に分ける『スモールステップ』や、最初は十分な補助やお膳立てをし、徐々に減らしていく『手助けフェーディング』などの支援があります。一つ一つクリアし、達成感を得ながら進めることが大切です」
「一つ成功したらきちんとほめてあげることも大切。子どもたちは、尊敬する指導者や大好きな保護者からほめられることで、脳でドーパミンが放出されて学習が促進されます」
-不器用さに気づいたらどうすれば。
「まずはかかりつけ医に相談してください。原因が脳性まひや神経・筋肉など他の病気ではないことを確かめることが必要です。そして、DCDの可能性があるなら専門機関を紹介してもらってほしい。DCDと向き合うには、子ども自身がやりたいことを尊重しながら、保護者や支援者も含めよく相談して作戦を考えていくことが大切だと思います」(聞き手・岩崎昂志)