「生きヘタ?」ニュース
■児童虐待について精神科医の井出浩さんに聞きました
4月のテーマは児童虐待です。児童精神保健が専門の元関西学院大教授で、精神科医の井出浩さん(72)に、虐待被害に直面している子どもの心境や、周囲の大人の適切な接し方などを教えてもらいました。
-子どもの心理は。
「基本的に、子どもはいろいろなことを大人から教えてもらって学んでいくので、身近な大人がしていることを『正しい』『間違っている』と評価はできないと思います。よく分からないけれど、自分はこういう目にあう。痛い目にあう。否定される…。そういうものなんだろうと思うしかなくなっていきます。最初は泣いたり、つらさを表現するけれど、訴えても同じことが繰り返されたら、受け入れるしかなく、逃れようという気持ちすらなくなってきます」
「常に緊張し、身構え、よろいを着ているような状態です。安心してリラックスできる時間がありません。そうすると、自分がこれでいいのか、自分を肯定的に見つめることができなくなります。身近な大人との間に安心感が持てないと、それ以外の大人との間に安心感を持つの大変です。自分を受け入れてくれるかどうか不安を感じますし、ちょっとでも否定されると、すぐに関係を切ってしまうこともあるかもしれません」
-子どもに関わる大人はどうすればいいですか?
「一言で言うなら、『大事にしてあげる』ということです。不安で揺れ動く子どもの気持ちや行動もひっくるめて、向き合う人間が必要です。『この人だったら自分を受け入れてくれる』という感覚が持てれば、自分を肯定的に見ることにつながっていきます」
「受け入れるというのは、問題行動もOKというわけではありません。ダメなことはダメと言う。ただ、頭ごなしに叱りつけるのではなく、なぜそんなことをしたのか、どういう気持ちだったのかを聞き、丁寧に向き合うことが、大切にするということです。大事にされた経験が立ち直りにつながっていきます」
-「大事に」をもう少し詳しく。例えば就学前の子は?
「スキンシップも含めて、その子がつらい時にそばにいてあげることです。本人が頑張ったことを一緒に喜んであげたり、やろうとしていることを応援してあげたり。『悔しかった?』『つらかった?』など、本人の気持ちを確かめてあげることもいいですね」
-小学生は?
「発信する言葉をしっかり聞くことです。丁寧に、理解しようとして聞く。悪いことをしたら、理由を聞きます。そして、できていることがあれば、しっかり見つけてあげることです」
-思春期は?
「対話ができる環境があったらいいなと思います。思春期で無口になったら、なんとなくそばで見ててあげるだけでも、尊重してもらっていると思えるかもしれません」
「周囲の関わり次第で、子どもはよろいを脱いでいけます。そのためにも『この人だったら』という人に出会えるといいです。学校の先生、子ども食堂の人、里親、近所の人…。たくさんの人が子どもを理解し、『この人』に出会えるチャンスが増えたらいいなと思います」(聞き手・中島摩子)