新型コロナウイルスの感染が急激に広がる中、昨年11月に感染した建設会社役員前川真一郎さん(51)=兵庫県加古川市=が、実名で取材に応じた。入院した兵庫県立加古川医療センター(同市神野町神野)では肺に水がたまって呼吸困難になり、一時は集中治療室(ICU)に。体重が約9キロ減ったが、懸命の治療が実って回復した。医師や看護師らに感謝するとともに「感染の実態を知ってもらうことで感染者が少しでも減り、医療従事者の負担も減らすことにつながれば」と願う。
同11月9日、前日に同じ店で鍋を囲んだ友人が発症したことを知った。「うつってないことを祈ろう」と思ったが、12日に関節痛が出て、夜には熱が39・6度に達した。「ついにきてしまったか」と動揺し、「風評被害で家業に影響が出たり、家族が差別を受けたりするかもしれない」と心配になった。
連絡を受けた妻(48)も気が動転し、体が震えたという。中学3年の長男(14)と共に、親族が所有していた兵庫県明石市内のマンションに“避難”。2人は濃厚接触者としてPCR検査を受けたが、陰性だった。
自身は13日、発熱を押して自ら車を運転し、病院を受診。PCR検査で陽性と分かり、兵庫県の新型コロナ感染症拠点病院として重症患者らを受け入れている同センターに入院した。食欲が次第になくなっていき、40度近くの高熱に悩まされ、酸素吸入も受けた。
19日、肺に水がたまり、吸い込むことができる息の量が少なくなった。夜は寝られず、小刻みな呼吸を繰り返した。「息をしないと死ぬ」とパニックになり、吸う動作を繰り返して過呼吸になった。「陸で溺れるような感じだった」と振り返る。
20日未明、血中の酸素濃度が低下したため、ICUに移った。看護師に「呼吸は吸うより吐く方に意識を集中して」と助言を受け、試すと楽になった。22日には、入院以来初めて夜に熱が出なくなり、容体が快方へ向かい始めた。看護師が入院後初めて、髪の毛を洗ってくれて感激した。
23日、ICUから高度治療室(HCU)へ。入れ替わりで重症者2人がICUに入っていった。24日に一般病棟に戻る時、移動中に久しぶりに見えた空が青く、心が躍った。その後も食事は進まず、うどん1本を食べるのに30分かかった。
入院中、ヘリコプターが1日2回、同センターから飛び立っていった。誰を運んでいるのか看護師に尋ねると、「新型コロナ以外の病気の重症者を他に転院させている」と聞き、センターの窮状に気付いた。
27日は自身の51歳の誕生日だった。お祝いのケーキが昼食に出て力が湧いた。社員と家族が千羽鶴を折り、写真に撮ったものを持ち込んでくれたのもうれしかった。さらに看護師4、5人が病室の外で「ハッピーバースデー」と合唱。「看護に明け暮れて疲れているはずなのに」。優しさが身に染みた。
その後、食欲も湧き始め、体調が回復。12月4日、自らハンドルを握って自宅に戻った。退院前には、せめてもの感謝の気持ちとしてベッドの掃除に励み、床もぴかぴかに磨き上げたという。迎えに来た妻も「頼れる病院が近くにあり、本当に幸運だった」と医療従事者に感謝した。
前川さんは「医師はもちろん、患者のケアで最前線に立つ看護師には感謝してもしきれない。自身は感染防止のため友人や恋人にも会わず激務に当たっている皆さんに、思いをはせてもらえたら」と話す。(笠原次郎)
