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スマホゲーム「Fate/Grand Order」の蘆屋道満(C)TYPE-MOON/FGO PROJECT
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スマホゲーム「Fate/Grand Order」の蘆屋道満(C)TYPE-MOON/FGO PROJECT
蘆屋道満のコスプレをする若者(提供)
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蘆屋道満のコスプレをする若者(提供)
蘆屋道満のコスプレをする若者
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蘆屋道満のコスプレをする若者
蘆屋道満の像=加古川市西神吉町岸、正岸寺
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蘆屋道満の像=加古川市西神吉町岸、正岸寺
蘆屋道満をまつる碑とお堂=加古川市西神吉町岸、正岸寺
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蘆屋道満をまつる碑とお堂=加古川市西神吉町岸、正岸寺

 師匠の妻と密通した上、その師匠を殺す。時の権力者の暗殺を企てる。強力な呪術を使い、都を滅ぼそうとする-。これらは全て、物語で描かれてきた平安時代の陰陽師(おんみょうじ)、蘆屋道満(あしやどうまん)なる人物の所業だ。「悪逆非道」「卑劣」のイメージが、ぴたりと当てはまる。そんな道満が、近年は若者の人気を集め、「推しキャラ」になっているという。

■長身の美形キャラ

 白と黒のモノトーンの長髪に、切れ長の目。片肌脱ぎの僧衣から、たくましい上腕がのぞく。名前から想像した古めかしいイメージとは正反対。インターネットで「蘆屋道満」を検索すると、長身で美形のキャラクターのイラストが、次々と現れた。

 スマートフォンのゲーム「Fate/Grand Order(フェイト グランドオーダー、略称・FGO)」に登場するキャラだ。若者に人気なのは、このゲームの影響だった。

 広報を担当するディライトワークス(東京)によると、FGOは2015年7月から配信され、世界でダウンロード数が6100万に上る超人気作という。

 プレーヤーが神話や歴史上の英雄を「英霊」として召喚し、敵と戦う。ジャンヌ・ダルクや織田信長らとともに、道満も召喚できるという設定だ。

■やっぱり悪役

 必殺技に当たる「宝具」の名前は、「狂瀾怒濤・悪霊左府(きょうらんどとう・あくりょうさふ)」。藤原道長に冷遇され、悪霊となった藤原顕光(あきみつ)が、道満に命じてたたりを起こそうとした説話から名付けられたのは明らか。やっぱり「悪役」だった。

 会員制交流サイト(SNS)のツイッターやインスタグラムでも、「道満推し」の投稿があふれていた。

 もっと美形にしたり、かわいくデフォルメしたりするなど、イラストも多数アップされている。コスプレを楽しむファンの画像は、「悪」を意識してか、照明を暗くして撮影した写真が多かった。「推し(の衣装)を着られてうれしい」などのコメントが書き込まれていた。

■“スゴ腕”の陰陽師

 蘆屋道満とは、どんな人物だったのか。図書館で調べてみると、平安時代に実在した“スゴ腕”の陰陽師だったことがうかがえる。

 「陰陽師 安倍晴明と蘆屋道満」(繁田信一著、中公新書)などによると、そもそも陰陽師とは、天体の動きなどから、災いを予見し、避けるための行動を貴族に伝える役割を担っていたという。

 陰陽師に不吉だと指摘されると、貴族は何日間も屋敷から出ず、来訪者とも会わない「物忌(ものいみ)」をした。凶事があるかもしれないから、一歩も外に出ず、誰とも会わない。現代に生きる私たちから見れば、ばかばかしいが、平安時代はそんなことを本気でしていた。

 陰陽師は当時の貴族社会になくてはならない存在で、「陰陽寮」という役所もあるほどだった。

 道満は、かの有名な陰陽師、安倍晴明と同時代に活躍したという。晴明が貴族だったのに対し、道満は民間の僧だったので「法師陰陽師」と呼ばれる。

■安倍晴明の妻と密通

 陰陽師として並び称されるほど名高かったとされる晴明と道満は、後世の物語では、かわいそうなほどに対照的な描かれ方をしている。

 鎌倉時代の「宇治拾遺物語」では、道満は「道摩法師」として登場する。時の権力者、藤原道長に呪いをかけようとするが、晴明に気付かれ、故郷の播磨国に追放されてしまう。

 そして江戸時代初期の「安倍晴明物語」での描かれ方は、悪逆非道ぶりが目に余るほどだ。

 道満は術比べに敗れて晴明に弟子入りするが、晴明のいない間に晴明の妻をたぶらかし、この妻と共に、謀略で晴明を殺害する。ところが、秘術でよみがえった晴明に成敗されてしまう。

 いつしか、「正義」の晴明に対し、道満は「悪」の人物として描かれるようになる。

 現代になっても、それは同じ傾向にある。

 2001年の映画「陰陽師」を見た。野村萬斎さんの晴明が“はまり役”なのは疑いようがないが、道満がモデルの「道尊(どうそん)」を演じた真田広之さんは“怪演”と言っていい。

 都を滅ぼそうと企て、伊藤英明さん演じる源博雅を殺害する場面などには、思わず引き込まれてしまう。

 まさに悪役の面目躍如。興行収入30億円超の大ヒットとなったのもうなずける。

■生まれも育ちも兵庫県加古川市

 そんな悪役イメージの道満だが、生まれ育ったとされる兵庫県加古川市では、全く異なる人物像が伝わる。道満の屋敷跡に建てられたとされる正岸寺(同市西神吉町岸)を訪ねた。

 「道満は穏やかで無欲な人格者。弱い人を助け、医術も使ったと伝えられています。悪役としての人物は、物語として面白おかしく作られたのでしょう」

 岸本英雄住職(70)が教えてくれた。

 境内には、先代住職が1983年に建てた道満をまつるお堂や碑があった。お堂内の道満の像は、岸本住職の話を裏付けるかのように、柔和な表情をたたえていた。

 岸本住職によると、90年代、2000年代の陰陽師ブームの頃は、観光バスが来るなど、道満ゆかりの地として大勢の参拝者が訪れた。ブームは一段落していたが、ここ数年は再び、20代の若者や若い親子が訪れるようになったという。

 岸本住職はFGOの道満を知らなかったので、私のスマホの画面を見せた。

 「…」

 美形のキャラに数秒間、沈黙した後、「名前が現代に残り、寺に来てくださる人がいるのは、ありがたいこと。それをご縁とし、本堂で手を合わせてもらえればうれしいです」と話した。

 道満の伝説は「どうまんの一つ火」として、加古川市の「ふるさと絵本」にもなっている。絵本では、道満と式神(術で用いる鬼神)との心温まる交流が描かれていた。

■「晴明より好き」

 物語では悪役として描かれがちな道満だが、そればかりではない。

 夢枕獏さんの小説「陰陽師」シリーズでは、道満は、ぼろの衣を身にまとう白髪の老人として登場する。強力な呪術を使い、晴明とは互いに実力を認め合う。晴明と対峙(たいじ)することもあるが、必ずしも敵ではなく、時には冥界と行き来するなど、自由自在な人物として描かれる。

 夢枕獏さんが道満について語った雑誌を見つけた。対談で「ぼくは、蘆屋道満のほうが、晴明より好きかもしれないですね」「自分が作った蘆屋道満像の方が、晴明と比べると人間的といったところですかね」(「別冊宝島 陰陽師の世界」)と話している。

 道満の何が、こんなに多くの人々を引き付けるのだろう。

 道満を題材にした講談を披露している加古川市出身の講談師、旭堂南海さんは「権力者側の安倍晴明に対して、蘆屋道満には権力におもねらず、在野で独自のスタイルを貫いたかっこよさがあります」と指摘する。「真正面の正義ではなく、あまのじゃくのような存在。その辺りが若者にも共感を呼んでいるのではないでしょうか」と話した。

■「呪術廻戦」「銀魂」にも

 道満はスマホゲームだけではなく、人気漫画でも、モデルとみられるキャラクターが登場する。

 アニメや映画にもなったコメディー漫画「銀魂(ぎんたま)」では、「巳厘野道満(しりのどうまん)」という陰陽師が敵として現れる。

 累計発行部数5千万部を超える「呪術廻戦」でも、登場人物が駆使する呪術の考案者として、平安時代の「蘆屋貞綱(さだつな)」という名前が出てくる。

 千年の時を超え、さまざまな描かれ方をする蘆屋道満。魅力的な人物であったことは、間違いなさそうだ。(斉藤正志)

    ◇   ◇

 地元ならではの慣習、かつての珍騒動のその後、変わった地名…。言われてみると気になって仕方ない。そんな「なぜ?」「何?」を、記者が深掘りします。調べてほしいことを募集中。郵送かファクス、メールで連絡先を記し、〒675-0031 加古川市加古川町北在家2311、神戸新聞東播支社編集部「ナゼナニはりま」係(ファクス079・421・1023)まで。toban@kobe-np.co.jp

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