東播

  • 印刷
阪神タイガースの糸井嘉男選手とパドレスのダルビッシュ投手とのやり取り(画像の一部を加工しています)
拡大
阪神タイガースの糸井嘉男選手とパドレスのダルビッシュ投手とのやり取り(画像の一部を加工しています)
セ・パ交流戦の対広島カープ戦で登板する北海道日本ハムファイターズ時代の鎌倉健さん=2005年5月
拡大
セ・パ交流戦の対広島カープ戦で登板する北海道日本ハムファイターズ時代の鎌倉健さん=2005年5月
ヤング東加古川レッドアローズの選手に指導する鎌倉健さん=兵庫県小野市長尾町
拡大
ヤング東加古川レッドアローズの選手に指導する鎌倉健さん=兵庫県小野市長尾町
ヤング東加古川レッドアローズの選手に指導する鎌倉健さん=兵庫県小野市長尾町
拡大
ヤング東加古川レッドアローズの選手に指導する鎌倉健さん=兵庫県小野市長尾町

 阪神タイガースの糸井嘉男選手(39)と、米大リーグ、パドレスのダルビッシュ有投手(34)が今年5月、写真共有アプリ「インスタグラム」で、ある男性の名前を挙げた。鎌倉健さん(36)。調べると、元プロ野球選手、北海道日本ハムファイターズ-などと輝かしい肩書が目に入った。球界の名手たちから、いきなり“指名”を受けた鎌倉さんはどんな人で、今はどこで何をしているのか-。気になって会いに行った。

■何書いたんやろ…

 まずは、糸井選手とダルビッシュ投手がインスタグラムでやり取りするまでの経緯をたどってみる。

 5月30日のプロ野球「日本生命セ・パ交流戦」の阪神タイガース対埼玉西武ライオンズ戦で、糸井選手は先制の2点本塁打を打った。

 ダイヤモンドを一周した糸井選手は、ベンチ横のテレビ中継用のカメラに、人さし指で文字を書くようなしぐさを見せた。ルーキーの佐藤輝明選手(22)の代名詞「Zポーズ」をまねたのだろう。糸井選手は試合後、「何書いたんやろ」との文章とともに、問題の場面をインスタグラムに自ら投稿した。

 ファンは「自分でも分からないの」「何書いたの」などとコメント。ここで、ダルビッシュ投手が「鎌倉健って書いたんですよね」と反応した。ちなみに、正解は「ダルビッシュ」で、理由は「(試合前の)朝にテレビで投げているところを見た」かららしい。ダルビッシュ投手は「次からダルビッシュー!って叫んでくださいね」と返信している。

■兵庫県内で指導

 実際に2人のやり取りを見た記者(25)は、鎌倉さんの名前をインターネットで調べた。すると、「ヤング東加古川レッドアローズ」と書かれたウェブサイトにたどり着いた。兵庫県播磨町に事務局を置く少年硬式野球チームだ。

 指導者を紹介するページには、鎌倉さんとされる人物が写った野球カードと共に「現役時代はダルビッシュとの長身コンビで日本ハムを支えた。(中略)サイドから140キロ後半のストレートを投げ込む快腕投手!!」とのコメントまで。連絡先も書いてあった。

 「鎌倉です」。声のトーンは少し低い。ダルビッシュ投手がいきなり自分の名前を出した上、見知らぬ記者が突然電話したのだ。戸惑うのも無理はないかもしれない。「ダルビッシュ投手がインスタグラムで名前を挙げた鎌倉さんですか」と尋ねると、「はい」と一言。そして「チームを知ってもらうためにも」と取材を快諾してくれた。

■元チームメートの2人

 「ちゃんとカバーせんかい」「両手でしっかり捕らんか」。6月下旬、兵庫県小野市内のグラウンドに、身長190センチくらいの男性がいた。小学生約10人に発破をかけている。鎌倉さんだ。

 鎌倉さんは愛媛県出身。県立川之江高校(同県四国中央市)のエースとして2002年夏の甲子園大会に出場し、浦和学院高校(さいたま市)を破るなど快進撃を見せ、チームを4強に導いた。体を二塁に向けてねじり、右腕を横に伸ばす独特のフォームは「トルネードサイド」と呼ばれ、今も当時の高校野球ファンの記憶に残る。同年、日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ、日ハム)から指名を受け、プロ3年目には1軍で7勝を挙げた。

 糸井選手は日ハム時代の先輩に当たる。今では自由奔放な言動で「超人」とも呼ばれるが、投手から野手に転向するなど苦い経験も。鎌倉さんは投手時代の糸井選手を知っており、「めちゃめちゃ球が速かった。150キロは出ていた」。私生活でも仲は良かったが、糸井選手が野手に転向した後は「すごく危機感を持っていた。遊びに誘っても、全く相手にしてくれなかったから」。昼夜を問わず、バットを振り込む姿を何度も目撃した。

 2学年後輩に当たるダルビッシュ投手は、人懐っこい性格だったという。「マウンドではふてぶてしい表情だけど、プライベートは本当にかわいい後輩だった」。高校を卒業して間もないダルビッシュ投手が1軍に昇格した際には、もつ鍋を一緒に食べたという。新人のダルビッシュ投手がチームに溶け込めるよう、鎌倉さんなりの配慮だった。

 今年6月に日米通算170勝に到達したダルビッシュ投手は、2005年6月に対広島カープ戦で初登板初勝利し、プロとしての第一歩を踏み出した。くしくも鎌倉さんは、その前日の試合で先発投手として勝利。「いい流れでダルビッシュ投手につなげた」とヒーローインタビューで語った。

 日米で活躍するかつての同僚たち。長い時間を経て、会員制交流サイト(SNS)で不意に名指しされたことについて、鎌倉さんは「2人のやり取りを見た時は、携帯を持つ手が止まった。『何で俺なん』って驚いた」と苦笑いする。

■けがとの闘い

 息の長い活躍を見せる2人を「もう2人ともスーパースター。陰ながら応援するだけ」と目尻を下げる。群雄割拠のプロの世界。選手生命の長短は打率や防御率などに限らず、けがとの付き合いにも左右される。

 7勝した2005年、鎌倉さんはシーズン開幕前に、新しい変化球「カットボール」を習得した。直球と変わらない軌道で、打者の手元で小さく曲がるため、バットの芯を外すことができた。一方、変則的な投球フォームは肘に負担を掛けていた。「シャンプーのボトルを押したり、髪を洗ったりするだけで痛かった」。痛み止めを飲んでも、肘の内側に激痛が走った。

 関節を包む滑膜に炎症が起きており、同年のシーズン終了後、とげ状になった骨組織を内視鏡で取り除く「クリーニング手術」を受けた。術後はランニングなどのリハビリメニューをこなし、1カ月後に投球を再開。けがは癒えたはずだったが、指先に以前の感覚が戻ってこない。その上、肩や腰に次々と痛みが出た。「体って、いつまでも痛みを覚えている」。右肘を無意識にかばっていたことが原因だった。

 「けがは言い訳にできない。大小を問わず、誰しもけがはあるから。100パーセントでプレーしている人なんて、プロにいないと思う」

 06年は先発と中継ぎを合わせて6試合に登板したが、思うように力を発揮できなかった。同年6月に2軍に降格して以降、1軍に昇格することなく07年、22歳で戦力外通告(解雇)を受けた。その後、1年ほど愛媛県内で自主練習を続けたが、08年、誰も知らない場所で静かに現役を退いた。

■後進に伝えること

 知人を頼り、2009年から兵庫県加古川市などで子どもたちに野球を教えてきた。現在、ヤング東加古川レッドアローズの小学部で指揮を執りながら、オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)の投手だった高橋功一さん(50)と野球塾を経営。平日は週4日、神戸や高砂、三木市内で、5~15歳の子どもたちを指導している。高橋さんは、鎌倉さんの指導ぶりを「選手と年齢も比較的近く、兄貴分として根気強く向き合ってくれている」と評価する。

 ヤング東加古川レッドアローズは、硬球で試合をするヤングリーグに所属。肘や肩、腰など体の中枢に負担が掛かる野球は、体の骨格が形成する前の子どもにとって、けがのリスクがつきまとう。かつて同じく硬球で試合をするシニアリーグ(中学生対象)に所属していた記者の周囲には、中学生で肘を手術した先輩がいたほどだ。

 鎌倉さんは選手に対し、肘や肩のストレッチを入念にさせるという。疲労がたまったときに日頃のケアが不十分だと、けがに直結するからだ。鎌倉さんは「子どもたちは無理して頑張ろうとする。痛みをこらえて『大丈夫』と言っても、しぐさや表情で分かる。子どもって正直やから」。特に肩や肘を酷使する投手や捕手には、試合後すぐにアイシングを施して疲労を回復させる。

■20年ぶりの聖地

 ヤング東加古川レッドアローズは、発足8年目を迎えた。今春の第93回選抜高校野球大会には、かつての教え子が出場。「球場の雰囲気は変わっていたけど、やっぱり当時を思い出した」。応援のため鎌倉さんは自身が出場した2002年以来、初めて甲子園球場(兵庫県西宮市)に足を運んだという。実に約20年ぶりだった。「本当に自分がこの中(甲子園)にいたのかって、不思議な感覚になった。でも、今でも自分の実力は出し切れたと思うし、後悔は一つもない」

 小学2年生で野球を始め、プロの世界に飛び込んだ。弱冠22歳でクビを宣告され、厳しい現実にもぶち当たった。ただ、高校時代の恩師から言われた「周囲に感謝して、誰かのためにプレーしろ」との言葉が、今も自分を支えてくれている。

 「自分一人で野球をやっているような気がするけど、誰かの支えがあってこそプレーできる。チームの選手たちにも気付いてほしいな」。起伏の激しい野球人生だったからこそ、選手に向ける視線は誰よりも熱い。(千葉翔大)

東播スポーツ
東播の最新
もっと見る
 

天気(9月23日)

  • 29℃
  • ---℃
  • 10%

  • 29℃
  • ---℃
  • 20%

  • 29℃
  • ---℃
  • 10%

  • 31℃
  • ---℃
  • 10%

お知らせ