■トラック油圧機器修理会社経営 難波武男さん（６１）高砂市

　１５００万円のイタリア車、３５０万円もするプロレーサー向けシミュレーター…。高砂銀座商店街（兵庫県高砂市高砂町）の活性化を目指して空き店舗を改装した拠点には、自身の趣味の品々が並ぶ。イベントの目玉にと経営する会社の利益をつぎ込んで買っているとか。

　高砂町で生まれ育った。大学を卒業後、自動車の修理会社や販売会社などに勤めた。その後独立し、姫路市でトラック油圧機器の修理会社を起業した。

　経営が軌道に乗った２０１１年夏、悲劇に見舞われる。妻の敏子さんが大腸がんのため４５歳で急逝。大学４年、高校３年、中学３年の子どもたちを思い、病床の敏子さんは「孫の顔を見たかった」と涙を浮かべた。子育てが一段落し、自身の人生を楽しめる時期まであとわずかだった。

　妻を亡くし、人生観ががらりと変わった。「どうせいつか死ぬのなら、好きなことをできるときにしなければ」

　トラック修理の依頼が入れば、休みなく、昼夜を問わず働いた。その利益を手に日本製オートバイの旧車を購入。米ラスベガスのオークション会場を度々訪れ、約４千万円をつぎ込んだ。世界ラリー選手権で優勝したイタリアの名車「ランチア・ストラトス」のレプリカモデルも１５００万円で手に入れた。

　死ぬまでにやりたいことの一つが、地元の高砂銀座商店街の活性化だ。「子どもの頃、商店街は買い物客であふれかえり、店には表から入れず、裏から入ったこともあった」と振り返る。２１年６月、洋服店だった実家の空き店舗を改装しランチア・ストラトスを展示すると話題をさらった。自ら釣り上げたマグロを商店街で配ったこともある。

　約１００台の名車を集めた催しを商店街付近で開く予定という。「人生を全うできなかった妻の分も、わが人生で悔いなく好きなことをやり尽くしたい」と前を向く。（笠原次郎）