兵庫県高砂市荒井町南栄町の山陽電鉄「神鋼前踏切」で、トラックと衝突した特急電車が脱線し、乗客ら１６人が重軽傷を負った事故から、１２日で１０年となった。この１０年間で、山電や市などは再発防止に取り組み、県は現場周辺の線路の高架化にかじを切った。しかし、現場付近の住民たちは「交通マナーは悪いまま。いつ同じ事故が起きてもおかしくない」と今もなお尽きない不安の声を漏らす。

◆トラックが立ち往生

　山電によると、事故は２０１３年２月１２日午後３時５０分ごろ発生。車両運搬用トラックが同踏切を横断中、荷台の一部が遮断棒に引っかかり、立ち往生。踏切を通過しようとした姫路発梅田行き６両編成の特急電車が、線路内でトラックの荷台と衝突した。衝撃で脱線した先頭車両が、線路脇の電柱などをなぎ倒し、その影響で駐車場や民家の壁を壊した。

　この事故で、電車の運転士が右足骨折などの重傷、電車内にいた約７０人の乗客のうち、１５人が軽傷を負ったという。高砂署は、トラックを運転していた男性＝当時（３６）＝を、自動車運転過失傷害の疑いで逮捕した。

◆安全装置など設置

　山電は、踏切内の異常を感知する装置が、立ち往生したトラックに反応しなかったことが事故要因の一つだと分析。当時のセンサーは、高さ約８４センチにある障害物しか感知できない仕組みだった。事故が起きた時、踏切内のトラックの荷台はそれより低い位置にあったため、電車の運転士は異常に気付けなかったという。

　事故から５年後に山電は、同踏切の検知装置を「２段ビーム」方式に取り換え、事故前よりも低い高さの障害物でも感知できるようにした。事故があった現場には監視カメラも、複数台設置した。

　また同踏切のほか、車が通行する全ての踏切にも、障害物を検知する装置を設置。同踏切以上に危険性の高い踏切には、監視カメラや人工知能（ＡＩ）による障害物検知装置、３Ｄセンサーも取り付けた。

　山電や高砂署は毎年、周辺企業や学校で、踏切内の危険性を教える交通安全啓発活動も実施。県も荒井駅周辺の線路のうち、この踏切を含めた区間で最大２・５キロの高架化事業を進めるというが、着工時期などはまだ決まっていない。

◆残る構造的な危険

　トラック運転手の過失に加え、同事故で問題視されたのが、踏切と、北側にある交差点の停止線との距離の短さだった。わずか１２メートルほどしかなく、軽自動車２台が並ぶのがやっと。中型トラックは１台で詰まる。事故時も、先行する乗用車は前方交差点の赤信号で止まっていたが、トラックは踏切へ進入。渡りきる前に遮断棒が下りてきたという。

　同市や同署は事故後すぐ、危険を知らせるために踏切周辺の路面を赤く塗装した。またこの北向き道路は踏切を挟む約１８０メートルの区間で、中型・大型トラック、大型特殊車両の通行を禁止。標識や道路標示で、迂回するよう促している。

　だが、踏切近くに住む男性（７４）は「大きなトラックは相変わらず通っている。信号待ちの車が線路内で待つことも、しょっちゅうだ。たまたま事故になっていないだけ」と話す。

　別の住民女性（６４）は「時間がたって事故が風化したことで、ドライバーはこの踏切の危険性を忘れてしまっている。危ない運転ばかり」と怒りをあらわにした。

　１０年がたち、さまざまな対策が進むが、事故の記憶が薄れる中、運転者の意識啓発が大きな課題として残り続けている。