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ほぼ自動的に環境を制御する「ゼブラグリーンズ」のハウス。トマトの茎は高さ4メートルまで伸ばし、下に折り返すことで生産効率は通常の3倍という=加古川市志方町原
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ほぼ自動的に環境を制御する「ゼブラグリーンズ」のハウス。トマトの茎は高さ4メートルまで伸ばし、下に折り返すことで生産効率は通常の3倍という=加古川市志方町原
病害虫を侵入させないため防護服でハウスに入る記者
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病害虫を侵入させないため防護服でハウスに入る記者
トマト栽培のためのデータの基になっている調査株(手前)。1週間ごとに成長した場所にテープを付ける
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トマト栽培のためのデータの基になっている調査株(手前)。1週間ごとに成長した場所にテープを付ける
ハウス内の環境をコンピューター管理している
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ハウス内の環境をコンピューター管理している
ゼブラグリーンズの環境制御型ハウス
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ゼブラグリーンズの環境制御型ハウス

 先端技術を生かした「スマート農業」が各地で進む中、注目されているのがさまざまなデータを活用した栽培手法だ。国は「2025年までに農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践」と掲げる。兵庫県加古川市に昨秋、水や肥料やり、気温・湿度などをコンピューター管理し理想的な栽培に近づける「環境制御型ハウス」(約40アール)がお目見えした。運営するのは大手種苗会社出身の男性3人が立ち上げた農業法人「株式会社ゼブラグリーンズ」。スマート農業の現場を訪ねた。(増井哲夫)

 加古川市志方町の田園風景に三角屋根が九つ連なった巨大なハウスが現れた。「関係者以外立ち入り禁止」のドアをくぐり、出迎えてくれたのは発起人の一人でマーケティング担当の小畠諒将(りょうすけ)さん(32)。「これでハウス内の環境を確認、制御しています」とテーブルのノートパソコンを指さした。屋内外のセンサーと連動し、ハウス内の気温・湿度、日射量、二酸化炭素(CO2)濃度などが表示されている。

 栽培棟へ入る前に防護服を着る。閉鎖空間のため、病害虫などが侵入すると、あっという間に被害が広がるからだ。

 ここでは約4400株のトマトが栽培されている。まず驚いたのが茎の高さだ。4メートルの高さまで伸ばし、上部のフックに引っかけてつり下ろし、地表をはわせる。小畠さんによると、トマトのできる段数(房の数)が通常は5~10段とされるのに対し、約35段という規格外の多さ。こうすることで生産性を高めている。

 データ農業の鍵となるのが、ハウスの中心にある「調査株」といわれる5株。毎週水曜、神戸市出身で農場長の松宮周平さん(29)が茎の太さや葉の長さ・幅、成長点から花までの長さなどをチェックする。そこから必要な温度、光、水、CO2などの指標を判断し、パソコンに入力していく。

 後はコンピューターによる自動制御。日射量が多ければ遮光カーテンが閉まり、暑ければ外壁のビニールや天窓が開いて外気を取り入れる。光合成を助けるため、CO2濃度が下がれば、発生装置が稼働する。「トマトは極端な環境の変化に弱い。常に屋外の天候を意識しながらデータを管理している」と松宮さん。

 データ以外に重要な役割を果たすのが、受粉を担う在来種のクロマルハナバチだ。ハウス内にある二つの巣箱で飼育。大きな羽音を立ててハウス内を飛び交っている。活動しやすいよう気温などを調整するほか、巣箱のそばには、帰って来たハチのエネルギー補給のためシロップも置いていた。「農場にとってハチは生命線なので」と小畠さん。

 同法人は、タキイ種苗にいた小畠さんと松宮さん、加古川市出身の柿坪俊彦さん(46)が2021年11月に起業した。

 タキイでは、柿坪さんが新規事業や異業種連携、小畠さんがコンサルティング、松宮さんが研究農場に従事。魅力があるのに栽培の難しさや収穫量の少なさから日の目を見なかった品種は少なくなく、3人は「消費者にとって価値のある野菜を市場に流通させたい」と一念発起した。

 22年10月末にハウスが完成。第1弾として、タキイと専売契約した「機能性トマト」の栽培を始めた。抗酸化作用があるリコピンやうまみ成分のグルタミン酸を一般的なトマトの約2倍含んでいる。小畠さんは「データ農業が普及すれば、作業の効率化につながるだけでなく、より多様で魅力的な野菜や果物が世に出てくる」と期待する。

 【農業へのIT活用】 農家の担い手不足を背景に、国は2020年10月、スマート農業の普及を加速化する方針を打ち出し、全国で200以上のプロジェクトが進む。施策の柱の一つが「農業データの活用促進」で、2年以内にほぼ全ての農業の担い手が取り組むという目標を掲げている。

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