１９９２年バルセロナ五輪、９６年アトランタ五輪と、女子マラソンで２大会連続のメダリストに輝いた有森裕子さんは、第１回から５年連続で大会ゲストを務める。神戸マラソンを知り尽くす「レジェンド」に、大会の魅力や参加者へのアドバイスを聞いた。（山本哲志）

　－神戸マラソンの印象は。

　「昨年のスタートは圧巻でした。阪神・淡路大震災から２０年。復興の象徴としてランナーのみなさんが黄色の手袋を着け、高校生たちが『しあわせ運べるように』を大合唱した。思わず鳥肌が立っちゃいました。ああいうのは神戸マラソンを開催する意味として大事に継承していってほしい」

　－マラソンシーズン真っ盛り。毎週末、全国各地で開催されている。

　「規模の競い合いではなく、内容の競い合いをしてほしい。市民ランナーの目も肥え、違いを求めて大会を選び始めている。マラソン大会には多くの時間とお金、人が必要。それだけ地方に影響力があるわけですから、ランナーがただ楽しむのではなく、スポーツや健康の重要性を社会に促す、という視点がもっとあっていい」

　－ランナーへのアドバイスを。

　「まずは無理をしないこと。でも、それって案外難しいんです。周りも走っている中でスピードを緩めるとか、止まるとか、リタイアするのは本当に勇気がいること。もちろん、気持ちの弱さを奮い立たせてゴールして『感動！』というのも分かるが、そこに痛みを伴わないでいてほしい」

　「海外のマラソン大会では、テーピングしている人なんかほとんど見ない。でも、日本では多くの人がテーピングやサポーターして走っている。そんな時は『健康のために走っているんですよね？』って言いたくなる。健康ブームで広がってきたはずなのに、そこを見失って体を壊しちゃう。とにかくみなさんには健康に走ってほしい」

　－マラソン大会までの過ごし方は。

　「食べ物も練習も詰め込みすぎないように。一番怖いのは大会に疲れを残すこと。環境の整った競技者と違い、市民ランナーはトレーニングの時間を十分に取れない。だからこそ、日常生活が大切。朝起きてから夜寝るまでが練習時間と思うこと。規則正しい生活を送り、姿勢良く。肩掛けかばんではなくリュックサックを使う。一駅手前で降りて歩く－。少しの意識変化が練習にも役立つ」

　－神戸では、フルの３５キロ付近で急坂が待ち構える。コースの攻略法を。

　「どんなレベルのランナーでも最後はきついので、前半に飛ばさず、どれだけ落ち着いて走れるかが鍵。１０～１５キロ、２０～２５キロの海沿いを走る区間は、風とうまく付き合うこと。２５キロすぎから３５キロまでは平たんなので、そこで態勢を整えて急な上りに備えればいい。とにかく前半は景色や雰囲気を楽しんで、ニコニコしながら走ってほしい。どうせ終盤はそんな余裕なくなるんだから（笑）」

　「市民ランナーのレベルが上がって多くの大会で制限時間が短くなっているが、神戸は制限時間が７時間。初心者に優しい大会と言える。無理なく走ってほしいというのが、私が一番望むこと。震災からの復興を掲げる神戸マラソンは、関わる人たちを元気にする要素を持っている大会。走る人も元気でいてくれないとね」

【ありもり・ゆうこ】　岡山県出身。岡山・就実高、日体大を経て実業団のリクルート入社後、トップランナーに。１９９１年の大阪国際女子マラソンで当時日本最高の２時間２８分１秒をマークし、翌年のバルセロナ五輪で銀メダルを獲得。９６年のアトランタ五輪でも銅メダルに輝いた。２００７年の現役引退後は各地の市民マラソンでゲストランナーを務め、競技の普及に尽力する。４８歳。