
「ありがとう」を、つぎの一歩へ-。阪神・淡路大震災から復興した街の姿と、感謝の思いを伝える神戸マラソン。5回目の開催となった15日、2万人のランナーが、沿道を埋めた約61万人が、それぞれの「ありがとう」を胸に走り、そして声援を送った。震災発生から間もなく21年。雨は上がり、復興を象徴する「ひまわり色」に彩られた街に、前を向く人たちの姿があった。
【最高齢ランナー 和歌山の上野山馨さん完走】
神戸マラソンで過去最高齢ランナーとなる90歳の上野山馨さん=和歌山県有田市=が、制限時間(7時間)の約20分前にゴールに飛び込んだ。「なんとか完走できた。健康でよかった」と安(あん)堵(ど)の表情を見せた。
「90」「丈夫で長生き」とデザインした帽子をかぶり、レースに臨んだが、予想外の暑さに苦しんだ。それでも途切れない声援が背中を押し、定番という「グリコのポーズ」でフィニッシュした。
専門誌「ランナーズ」によると、2004年以降、日本人で90代のフルマラソン完走者は上野山さんが3人目。普段は1人でトレーニングを積んでいるといい、「高齢者にマラソンが浸透して、一緒に走る同年代の友だちがほしい」とはにかんだ。(井上 駿)
【「沿道にありがとう」 小林祐梨子さんクオーター完走】
ゲストランナーとしてクオーター(10・6キロ)に出場した、2008年北京五輪5000メートル代表の小林祐梨子さん(26)=須磨学園高出身。ゴール後、「多くの人が声を掛けてくれた。『ありがとう』の思いが沿道のみんなに伝わっていたらうれしい」と笑顔で話した。
かつてトレーニングで走った国道2号はこの日、気さくな関西弁の応援であふれた。たくさんの人とハイタッチを交わしながら、楽しく駆け抜けた。
「帰ってきたな、という気持ち。現役時代を思い出しながら走りました」
ゴール後もランナーたちに向かって「皆さん気を付けて」「無理しないで」とエールを送った。(中川 恵)
【家族に「ありがとう」 震災で実家が全壊した川口裕市さん】
ゴールの後、天を仰いだ。「おやじ、兄貴、完走したで」。神戸市灘区出身の会社員、川口裕市さん(43)=広島市西区=は心の中で亡き父と兄に語り掛けた。「見守ってくれてありがとな」
阪神・淡路大震災で阪神大石駅近くにあった自宅が全壊。神戸市東灘区にあった父竹市さん経営の材木店も液状化の被害を受けた。
「最近、しんどいねん」。仕事に厳しかった父の言葉を今も覚えている。営業再開後も不況で仕事は激減。震災発生から約6年後、廃業に追い込まれた。
同じころ、四つ上の兄健市さんが急死した。震災の後、裕市さんは大阪府東大阪市に住んでいた健市さんと一時同居。酒を酌み交わす仲だった。
通信機器販売会社に勤める裕市さんは「僕が両親を支える」と気を張って生きた。広島に転勤した後、2007年に登志子さん(39)と結婚。両親にとっては初孫となる長男真輝君(5)が生まれ、少し肩の荷が下りた気がした。
これから親孝行できる。そう思っていた矢先の今年1月、竹市さんに大腸ガンが見つかった。「余命は長くない」と言われた。
自立した息子の姿を見せて安心させたい。闘病の父を励ますつもりで神戸マラソンに応募した。だが、間に合わなかった。「いい人生だった」。9月、そう言い残し、76歳で父は逝った。
雨上がりのコース。海がキラキラ光る。須磨海浜水族園前では家族が応援してくれた。30キロ過ぎ、「それが限界か」というプラカードが目に入った。「こんなもんじゃない。まだやれる」と力が湧いた。
5時間余りでゴールし、母安子さん(72)、登志子さんらに迎えられた裕市さん。「安心してな。僕が家族を守っていくで」。もう一度、空を見上げた。(井上 駿)
【「神戸と東北がふるさと」 2つの震災を経験した烏頭尾昌宏さん】
「神戸の街並みは、すごく美しくなった」
神戸市兵庫区出身の会社員、烏頭尾昌宏さん(37)=仙台市太白区=は阪神・淡路大震災直後の街を思い出しながら、42・195キロを駆け抜けた。
大学卒業後、建設コンサルタント会社に入り、技術者になった。きっかけは16歳のときに神戸で体験した大震災。思い出の詰まった街で、建物が崩れ、高速道路が倒れていた。「なぜこんなにもろいのか、理由を知りたかった」
仙台市の支社に赴任して2年後、東日本大震災が起きた。2度の震災を経験し、神戸も東北も「ふるさと」だと思うようになった。
今取り組む仕事は、宮城や福島などでの復興支援道路建設に向けた調査・分析。「若い学生たちに復興を担う仕事に興味を持ってほしい」。そう願い、神戸マラソンに臨んだ。
東北の被災地から参加したランナーを示す「感謝と友情」と書かれた黄色いリボンをなびかせて走った。「東北がんばれ」。沿道の声援に背中を押してもらった。
「東北での仕事は、これからが本当のがんばり時。少しでも被災地の復興に貢献したい」。神戸を走り、もうひとつのふるさとへの思いはさらに強まった。(段 貴則)
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