エッセー・評論

木皿食堂

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撮影・木皿泉

撮影・木皿泉

 父は、ある軽やかな曲を聴くと必ず顔をしかめた。それは朝ドラの主題曲で、がんで入院していたとき、そのドラマを見ていたという。病室での痛みを、歌を聴いただけで、リアルに思い出すのだそうだ。

 たいていの記憶は遠くへ押し流されてしまうものなのに、なぜかそこだけ鮮やかにとどまっていることがある。ダンナは、脳内出血で入院中、何も食べさせてもらえなかった。私が病室へ行くとダンナの目の前にティッシュペーパーが1枚敷いてあって、その上に串に刺したジャガイモのフライが1本置いてあった。同室の人からのおすそ分けだった。その人は夜に来て、朝に帰ってしまうので、私のためにその串イモを置いてくれていたのだ。何も食べられないダンナは、その串イモをずいぶん長い間見せられて、恨みに思っていたらしい。何でも食べられるようになったダンナは、10年たった今でも、串イモには目がない。

2016/5/1

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