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まちある調査団

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複雑な読みの変遷をたどってきた海神社。通称の「かいじんじゃ」が定着している=神戸市垂水区宮本町
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複雑な読みの変遷をたどってきた海神社。通称の「かいじんじゃ」が定着している=神戸市垂水区宮本町
ワタツミ、タルミ、アマの読みは記載があるが、カイはない「海神社史」=神戸市垂水区宮本町
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ワタツミ、タルミ、アマの読みは記載があるが、カイはない「海神社史」=神戸市垂水区宮本町

 神戸市垂水区の海沿いにあり、子の成長や豊漁祈願などで知られる海神社。地元では「かいじんじゃ」の名で通るが、実は1970年代以降に定着した呼称で、「海」を「わたつみ」と読むのが正式だ。それどころか、かつては「たるみ」「あま」の仮名を当てた時代があり、最近では「うみ」が新たに浮上。単純明快な漢字一文字の社名がたどってきた、複雑な読みの変遷とは。(小川 晶)

 海神社は、平安期以前の創建とされ、千数百年の歴史がある。明治期に定められた社格では、広田神社(西宮市)や伊弉諾(いざなぎ)神宮(淡路市)などと共に兵庫県内で8社しかない「官国幣社(かんこくへいしゃ)」(別格官幣社を含む)の一つに位置付けられていた。

 読みが最初に登場するのは鎌倉期の文書で、「海」に「たるみ」「あま」の2種類の仮名を振っている。たるみは地名の垂水から、あまは海人(あま)族が祭る神という意味から、それぞれ付けられたとされる。

 その後、別の神社との混同により海神社とは異なる社名の時代が続いたが、明治期に元の社名が復活。読みは「わたつみ」で、国学者本居宣長が、神社が祭る「綿津見神(わたつみのかみ)」にならうべき-と主張したためと伝わる。

 一連の経緯を、76年発行の「海神社史」では章を立てて説明。「千年余の伝統を尊ぶとすれば『タルミ』か『アマ』とするのが穏当」と結論付けつつ、「わたつみ」についても「本居宣長が言い始めてから既に百五十年も経(た)っているので、悪いというのではない」と認める。一方で、「かい」については全く触れておらず、同年時点では定着していなかったとみられる。

 田中宗則禰宜(ねぎ)は「呼びやすさからか、その後の40年間で急速に『かい』が広がり、伝統の読みに取って代わったのだろう」と推測する。これに対し、県神社庁の岩熊利教主事は関西特有の背景を指摘。「湊川神社の『楠公(なんこう)さん』や西宮神社の『えべっさん』のように、親しみを込めて神社を呼ぶ風習が影響しているのでは」とみる。

 神社側からすれば、宗教法人法の届け出に記載する「わたつみ」があくまで正式。しかし、今では氏子さえほとんどが「かい」と読み、ウェブサイトやメールのアドレスも「kaijinjya」を使う。

 10年ほど前には、あいまいな状態を逆手にとり、「うみじんじゃ」とする呼称案が神社内で出た。

 同音の「産み」にちなみ、安産祈願の参拝客増加を狙った。のぼりを掲げるなどPRを図ったが、目立った効果はなく、「そもそも何の根拠もない」との意見もあり、立ち消えになったという。

 田中禰宜は笑う。「どの読みが正しいとか、決めつけるつもりはありません。『かい』が浸透している以上、『わたつみ』にこだわっても混乱を招くだけですから」

2017/12/13

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