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ゴミ拾いSNS「ピリカ」のPR動画(ピリカのホームページより)
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ゴミ拾いSNS「ピリカ」のPR動画(ピリカのホームページより)
ピリカのサービス説明画面。自治体や企業・団体向けのサービスが普及への足がかりとなった
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ピリカのサービス説明画面。自治体や企業・団体向けのサービスが普及への足がかりとなった

 京都大大学院を休学し、世界1周の旅を終えた小嶌不二夫さん(35)=神戸市東灘区出身=は研究者の夢を断ち、本格的にビジネスの道を歩み出す。事業の柱に据えたのは、地球環境問題の中でも「マイナーリーグ」と感じた、ポイ捨てゴミ対策。ゲーム性のある「ゴミ拾い専用SNS」を普及させようとアプリを開発、配信したが、当初は全くと言っていいほど手応えがなかった。(文中敬称略)

(井上太郎) 

■ホームレス状態

 アイヌ語で「美しい」を意味する「ピリカ」の名前で、小嶌が新しいSNS(交流サイト)を配信したのは2011年5月。スマートフォンで写真を撮影することでゴミを拾った場所が自動で記録され、ユーザー同士が閲覧、コメントし合える仕組みで、大学院の友人らにプログラミングを教わりながら半年かけて作り上げた。

 当時は休学中だったため、教授は「学費も払ってないのにお前が何で一番電気代使っとんねん」と怒っていた。「人生の保険」として大学院に残りたい気持ちもあったが、残るなら研究室のテーマに沿った研究でなければいけない。休学期間いっぱいの11年9月に、小嶌は大学院を去った。

 既に社会人になっていたエンジニアの友人らとチームを組めることにはなったが、まだ収入がないため、賃貸の自宅アパートを引き払った。ホームレス状態で友人の家々を泊まり歩きながら関東、関西の投資家、投資会社をあちこち訪ね、プレゼンテーション大会があると聞けばとにかく応募した。

■不安の中で

 その中で、東京の「デジタルガレージ」という会社の支援を取り付けた。デジタルガレージはツイッターを日本に持ち込んだ、ITの世界では名の通った会社だ。立ち上げ期の会社には資金的な支援だけでなく、アドバイスや育成プログラムを行っている。11年11月、小嶌はアプリと同じ名前の会社を設立する。

 アプリを配信した最初の月にピリカを使って拾われたゴミの数はわずか100個だった。ピリカを通じて、会ったこともない人がゴミを拾ってくれることに感動したという小嶌だったが、まだまだユーザーは少なく「とてもビジネスとは言えない」状況が続いた。

 「純粋の広告事業はあまりなくて、中小企業の社長さんが『なんか頑張ってるね、にいちゃん』『応援するよ』みたいな感じで、年間数十万円のお金を協賛してくださった。廃棄物の収集運搬をしている企業だったり、東京の印刷会社さんだったりが個人的にピリカを応援してくれて、それがぎりぎり生活費になっていた状態でしたね」

 そもそも、人々はアプリ一つでたくさんゴミを拾ってくれるようになるのか。誰も信じてくれないし、それ以前に「自分たちも分からなかった」と、小嶌は振り返る。うまくいかないのでは、という不安の中、手探りで実験を繰り返している感覚だった。

■成長軌道

 転機は2013年に訪れた。それは、「企業団体版ピリカ」のリリースだった。

 これまで個人のユーザーがゴミを一つずつ拾うという活動だけに焦点を当てていたが、現実にはさまざまな企業や団体が清掃活動をしていることに目を向けた。彼らのPRを後押しする意味でも、このサービスを使ってもらえるのでは-。小嶌はそんな仮説を立てた。「企業団体のCSR(企業の社会的責任)担当者が、これまで会社のブログやホームページで書いていたけど誰も見ていなかった記録をピリカ上にアップしてもらう。そうすれば他のゴミ拾いに関心がある人に見られて、お互いにとっていいんじゃないか。そう思ったんです」

 リリース翌年の14年、都道府県単位で初めて、福井県が予算を付けてピリカを導入した。それまで、県内の企業や団体はゴミ拾い活動をファクスで報告していたが、18年の国民体育大会開催に向けた美化活動の一環で、ピリカに切り替えてくれた。

 この事業で、県が企業、団体にピリカの活用を呼び掛けた効果は大きく、認知度は格段に広がった。2年後には横浜市も導入。ピリカ上で拾われたゴミは年間1200万個にまで急増した。

 こうした企業・団体との契約による「システム運用費」が収入の柱となり、事業は安定。ユーザー数も順調に伸びていった。

 ところが、小嶌たちはあることに気付く。「これじゃあいくらやってもキリがない」。ピリカには、決定的に足りないものがあった。(次回に続く)

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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