「『ドン』という衝撃で目が覚めました。(中略)同時に体中が左右に激しく揺さぶられ、上から物が落ちてきました」(女性、35歳、兵庫県西宮市)
1995年1月17日の発生から5カ月後に刊行された手記集「阪神大震災・被災した私たちの記録」(阪神大震災を記録しつづける会編)には、遺族や被災者らが「午前5時46分」の体験を記している。
「想像を絶する縦揺れと横揺れで、5秒もしない間に家の下敷きになった」(男性、28歳、神戸市長田区)
阪神・淡路大震災で被害に遭った住宅は63万9686棟。全壊は10万4906棟で全体の16・4%を占め、半壊は22・6%の14万4274棟に上った。全壊数は、東日本大震災の約12万9千棟に匹敵する。
直下型地震の特徴として木造住宅や低層建物の被害が大きかった。老朽家屋と商業施設が混在したJR六甲道駅南地区は、建物190棟の96%に当たる182棟が全半壊。10階建ての「メイン六甲ビル」は5階部分で折れた。芦屋市津知町は全壊率が8割に達した。
まちは焼け、高速道路が横倒しになった。鉄道網は途絶し、電気、ガス、水道といったライフラインは止まった。
地震に対して無防備だった。6434人が亡くなり、3人が行方不明となった。
◇
兵庫県は阪神・淡路10年を機に死因調査を行っている。県内の直接死5483人のうち窒息・圧死は72・57%の3979人。外傷性ショックが425人(7・75%)で続き、焼死が403人(7・35%)だった。
いつ命を落としたのか。法医学を専門とする監察医が検案した2306人分の遺体のうち、当日午前6時までに亡くなったのは9割超と推定されている。つまり「地震から15分間でほぼ即死」ということになる。
果たしてそうなのか。防災学者で兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長の室崎益輝(よしてる)(75)は懐疑的な目を向ける。
室崎が被災地に足を踏み入れたのは、震災翌日だった。防災の国際会議のため、発生当日は大阪市内に足止めされていた。
神戸市東灘区に入ると、崩れた住宅で人が生き埋めになっている現場に遭遇する。住民が「声が聞こえるやろ」と訴えた。
「丸1日経過しても、まだ生存者がいる」
◇
震災から7カ月後、室崎は学識者や医師らと「人的被害研究会」をつくり、犠牲者の死亡状況についての証言を集める。
死者がほぼ即死なら、住宅の耐震化を徹底するしか命を守るすべはない。だが、倒壊した家屋の下で一定時間以上生きているのなら、現場での救助・救命という選択肢も生まれる。
「しばらくは助けを求める声がした」「救出された時点では脈があった」
一部の研究者は講演会で、圧死の遺体写真を一般の人に見せつけ、耐震化こそが唯一の手段と訴えている。「発生直後の混乱期の情報が正確かどうか見極めないまま伝わっている」と室崎。25年たとうとする今も「ほとんどが即死」との見方が定説になっていることを危惧する。
「救える命はあったはず。被災者や現場の肉声に耳を傾け、震災の実相を捉え直す不断の努力が必要だ」=敬称略=
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