阪神・淡路大震災から四半世紀の経験を踏まえ、次の災害にどう備えるか。兵庫県の井戸敏三知事と神戸市の久元喜造市長がインタビューに応じ、震災の教訓や災害対策について語った。行政が対応すべき震災復興は終局に入ったとの見方では一致しつつも、井戸知事は復興住宅の高齢化など新たな課題を挙げたのに対し、久元市長は「100パーセント復興している」と強調、認識に差があることをうかがわせた。
-25年を振り返っての思いは。
「震災の復旧復興事業は順調に進んできたが、高速道路など社会インフラの分野に対する投資や事業の展開が結果として遅れてしまった。国も復旧復興事業は最優先に支援してくれたが、他地域とのバランスを考え、前向きな投資に対しては控えたところがあったと思う」
-被災後、兵庫県は「創造的復興」を掲げた。
「創造的復興は、単にまちを元に戻すだけではなく、21世紀の成熟社会や高齢社会を見据えた復興に力点を置いておこうというスローガン。官と企業、全県民が一つの共通目標を持って歩めたという点で、一つの大きな成果を上げられた。2015年に仙台で開かれた第3回国連防災世界会議では阪神・淡路の復興状況を踏まえ、『ビルド・バック・ベター』、つまり創造的復興が世界の災害復興の目標になった」
-その復興は成し遂げられたか。
「いつまでも復興、復興の段階ではない。25年は一つの大きな区切り。復旧復興のステージは卒業し、新たなステージに乗り移って活動を展開しなければならない。そういう意味では復旧復興は終わった。しかし、100パーセント果たしたかというと、胸を張って言うだけの自信は私にはない。災害復興住宅の高齢化など新しい課題も出てくる」
-震災の最大の教訓は何だったのか。
「やはり『事前に備えろ』ということではないか。当時、神戸を中心とする地域は地震が来ないと思われていた。あの揺れの中で、『関東か、大阪で大地震が起こった』と思う神戸の人もいた。物理的にも、意識面でも備えが全くなかった。備えているというだけでも様相はだいぶ違っただろう」
-教訓は生かされているか。
「災害が起こる度、被災地は同じように右往左往してしまっている。過去の災害から全く学べていない。例えば避難所の運営。いつも混乱し、トイレも汚い。阪神・淡路と同じ課題を繰り返している。事前の行動マニュアルを作成していても、それに基づく訓練ができていないからだろう。災害はいつどこで起こるか分からないという共通認識を持たなければならない」
-県は国に対し、事前対策から復興までを手掛ける防災庁(省)の創設を訴えている。
「昨年の台風19号以降、事前防災という考え方に関心が広がってきている。われわれの主張が理解されつつある。今の内閣府防災担当部局だけの体制では弱い。職員は各庁からの出向で、専門家が育たない。組織としての対応が必要だと強調している」
-風化を防ぐには。
「経験や教訓をもっと発信していかないといけない。震災15年の時に、われわれが取り組んできたことを他の地域に知ってもらうため、『伝える』という冊子を作った。20年では東日本大震災を受けて改定版を出した。25年では何をするか。20年度の大きな事業として、経験や教訓をどう生かしたらいいのかという実践的な手引書のようなものをまとめようと考えている。秋には完成させ、南海トラフ巨大地震に備えていくつもりだ」(聞き手・井関 徹、前川茂之、撮影・吉田敦史)
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