阪神・淡路大震災は、さまざまな場面で新しい取り組みを生み、それまで見えなかった課題を浮き彫りにした。「支援ボランティアへの支援」「外国人との共生」「トイレ環境の改善」-。それぞれのテーマで、室崎益輝(よしてる)・兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長(75)▽吉富志津代・多言語センターFACIL(ファシル)理事長▽加藤篤・日本トイレ研究所代表理事(47)-の3人に、今、なすべきことを聞いた。共通する思いは「震災の教訓は十分に根付いていない」との危機感だ。(金 旻革、竹本拓也)
■ボランティア支援の充実を/「公助」拡充、国の施策必要
「ボランティア元年」と言われた阪神・淡路大震災のときには、1年間で延べ137万7千人のボランティアが被災地に駆け付けた。25年近くが経過した今年10月、台風19号の被災地からは「ボランティアが足りない」との悲鳴が上がる。ボランティアが被災地に行きたくなる「公助」の充実を唱える室崎さんは「善意頼みから脱却し、ボランティアを支える仕組みづくりに、まず国が本気で取り組むべきだ。さらに自治体や公的機関、民間企業なども巻き込み、ボランティア支援の文化を育てなければ」と訴える。
室崎さんは「台風19号が国を揺るがす大変な災害だという認識が社会で共有されていない」と指摘する。ボランティアに行く人が固定化され、社会的評価も低い。阪神・淡路のときのように、個人単位で参加を考える人も少ない。
兵庫県は今春、全国に先駆けて「ボランティア助成」を創設。5人以上の団体に交通費などとして最大20万円助成する制度で、台風19号に初適用した。長野電鉄は長野市内で活動するボランティアに無料往復切符を配っている。JR東日本は、長野県や東北へ向かうボランティアに対し、復路の新幹線自由席がほぼ半額になる特別切符を販売する。ボランティアを支える取り組みは着実に進んでいるが、室崎さんは「まだまだ部分的で、ボランティアに『行きたい』という気持ちを巻き起こすところまでにはなっていない」と指摘。「もっと若者が困っている被災者を助けに行く世の中にならねば」と、さらなるボランティア支援の充実を呼び掛ける。
阪神・淡路では多くの大学生が被災地入りし、大学単位でのボランティアセンターも生まれた。室崎さんは一つの案として、被災地でボランティア活動する学生に文部科学省が旅費を助成し、特例で単位を認めるなどの措置を求める。「1週間でもいい。被災地が過酷な状況にあることも、被災者の数だけニーズがあることも、実際に行かないと分からない。雪が降る前の今こそ、国を挙げての多様な支援が必要だ」
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