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「茶話やかテント」と名付けられた仮設住宅のふれあい喫茶。住民がコミュニティーをつくる場となった=1995年7月8日、神戸市東灘区深江浜町、深江浜第1仮設住宅 ケア付き仮設住宅があった場所に立つ市川禮子さん。助け合って暮らす大切さを震災から学んだ=芦屋市呉川町、市保健福祉センター(撮影・後藤亮平) 「仮設住宅を巡る状況は劇的に良くなっているとは言えない。支援を続けたい」と話す中村大蔵さん=尼崎市 神戸新聞NEXT
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「茶話やかテント」と名付けられた仮設住宅のふれあい喫茶。住民がコミュニティーをつくる場となった=1995年7月8日、神戸市東灘区深江浜町、深江浜第1仮設住宅

ケア付き仮設住宅があった場所に立つ市川禮子さん。助け合って暮らす大切さを震災から学んだ=芦屋市呉川町、市保健福祉センター(撮影・後藤亮平)

「仮設住宅を巡る状況は劇的に良くなっているとは言えない。支援を続けたい」と話す中村大蔵さん=尼崎市

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「茶話やかテント」と名付けられた仮設住宅のふれあい喫茶。住民がコミュニティーをつくる場となった=1995年7月8日、神戸市東灘区深江浜町、深江浜第1仮設住宅 ケア付き仮設住宅があった場所に立つ市川禮子さん。助け合って暮らす大切さを震災から学んだ=芦屋市呉川町、市保健福祉センター(撮影・後藤亮平) 「仮設住宅を巡る状況は劇的に良くなっているとは言えない。支援を続けたい」と話す中村大蔵さん=尼崎市 神戸新聞NEXT

「茶話やかテント」と名付けられた仮設住宅のふれあい喫茶。住民がコミュニティーをつくる場となった=1995年7月8日、神戸市東灘区深江浜町、深江浜第1仮設住宅

ケア付き仮設住宅があった場所に立つ市川禮子さん。助け合って暮らす大切さを震災から学んだ=芦屋市呉川町、市保健福祉センター(撮影・後藤亮平)

「仮設住宅を巡る状況は劇的に良くなっているとは言えない。支援を続けたい」と話す中村大蔵さん=尼崎市

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 誰かが手を差し伸べなければならなかった。孤独にさせないために。尼崎市の特別養護老人ホーム「園田苑(そのだえん)」元施設長、中村大蔵(74)の胸には今も後悔に似た感情が沈む。

 阪神・淡路大震災から3年たっていた。追悼式などが開かれた「1・17」から4日後の1998年1月21日。尼崎市の食満1丁目仮設住宅で、痛ましい事件が起きる。パーキンソン病の父親=当時(87)=を、唯一の家族である長男が殺害。長男は父の介護を担っていた。

 消費者金融からの借金返済に見通しが立たない中、長男は「殺してくれ」と漏らす父の首を手ぬぐいで絞めた。手首を切って後を追おうとしたが、死にきれなかった。

 「震災による環境の変化を、私は乗り越えられなかった」。法廷で吐露した苦悩。だが、裁判所は借金苦が事件の直接的な原因と判断し、懲役2年の実刑判決を下した。

 当時、被告側の情状証人に立った中村は「事件の背景にある被災と仮設暮らし、介護の三重苦が顧みられなかった」と唇をかむ。

 長男は介護の日々をこう語った。「窓の外には四季があったが、仮設の中は夏と冬だけだった」。周囲から途絶した空間だった。

 市内最大規模の1060戸が並ぶ神戸市西区の西神第7仮設住宅。96年8月、宇都幸子(75)は独り暮らしの80代男性宅で言葉を失う。震災で亡くなった妻の仏壇だけがきれいに整えられ、それ以外は室内もトイレも、とにかくひどい状態だった。

 宇都はこの4カ月前、夫の転勤に伴って東京から宝塚市へ引っ越してきた。ボランティアに興味を持った友人の誘いで、西神第7仮設を訪問。そこで、後の「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」理事長で看護師の黒田裕子(故人)と出会った。

 「次はもっとすごいの」。黒田に促されて向かった別の男性宅は部屋のあちこちに汚物が残されていた。仮設に住み込み、24時間見守り活動に身をささげる黒田に導かれ、支援活動を始めることになった。

 日ごとにさまざまな問題が顕在化していく。徘徊(はいかい)する認知症高齢者。うつ病の自殺志願者。包丁を手に暴れるアルコール依存症患者…。

 コミュニティーづくりのため、玄関先に置いた白いプランターを活用した。2軒で一つを管理し、花を育てながら、互いの安否確認をするのが狙いだった。効果はてきめんだった。あるときは、アルコール依存症の男性宅から妻が逃げ出したことが判明。男性は妻がいなくなったことも分からないほどで、ボランティアと保健師が重点的に見守った。

 神戸市中央区のポートアイランド第3仮設住宅の自治会はあるルールを作った。「具合が悪いときは壁をたたけ。できないときは畳をたたけ」。会長の安田秋成(みのる)(94)は「何かあればみんなに頼れ」と口酸っぱく伝えた。実際、脳出血で倒れた男性は畳をたたき、隣人が救急車を呼んだおかげで一命を取り留めた。

 あいさつを交わし、ふれあいセンターのお茶会で顔を合わせるたび、居住者同士の心の垣根がなくなっていった。安田は「いろんな人がいろんな生活をしていたが、どの人も優しい気持ちを持っていた。それが仮設で一番学んだこと」とかみしめる。

 震災、災害は、その社会が抱える課題、これからの問題を先取りして提示する。日本社会に必ず現れる少し未来のありように、どう向き合い、解決するか。とりわけ顕著だった仮設住宅の課題は、福祉の分野で発展的な取り組みを生み出す。

 その一つが、24時間見守り体制の中で高齢者や障害者が共同生活する「ケア付き(地域型)仮設住宅」だ。

 「助かった命が失われてしまう」。特養やケアハウスなどを事業展開する社会福祉法人「きらくえん」名誉理事長の市川禮子(82)は震災直後、避難所の光景に目を疑う。トイレはひどく汚れ、長蛇の行列。簡易トイレには段差があり、高齢者らには利用しづらい。市川は福祉先進国のスウェーデンで普及していたグループホームを思い起こし、仮設での導入を兵庫県などに働きかけた。

 ケア付き仮設は95年4月、芦屋市で初めて導入される。1棟に14室で呉川町と高浜町に計4棟。6畳にトイレと洗面台がある個室は廊下でつながり、中心に約45平方メートルの共用スペースがあった。行政から委託を受け、現在のきらくえんが運営した。

 年齢も障害も異なる居住者が一つ屋根の下で暮らすことで、思いがけない効能が現れた。

 精神障害のある女性が、身体障害によって洗濯や買い物、調理が困難な60代男性を援助した。80代男性が認知症の90代女性の徘徊に「一緒に散歩してくるわ」と付き添った。自ら料理を一切しない別の80代男性は、片手で調理する障害者の姿に「自分が恥ずかしくなった」と語り、台所に立つようになった。

 市川は「残された能力を互いに生かし合う共生の姿があった」と目を細める。震災で夫を亡くし「自分も死んだらよかった」とふさぎ込んでいた80代女性は、居住者とともに花見や旅行に出掛ける中で変化を見せていった。共同浴室前ののれんに、得意の刺しゅうでこう記した。「人生これから 明日に生きる」

 ケア付き仮設は、健常者と障害者が分け隔てなく地域で暮らすことを掲げた「ノーマライゼーション」の理念を体現し、グループホームとして広く普及していく。

 商売人たちも仮設で助け合った。大火に見舞われた神戸市長田区腕塚町で95年6月にオープンした共同仮設店舗「復興元気村パラール」は、周辺の7商店街・市場の約100店舗が軒を連ねた。

 「ようやく家族を守れると思うとうれしかった」。大正筋商店街の茶販売店「味萬」を経営する伊東正和(71)は、貯蓄を切り崩す日々だった当時の心境をそう語る。

 間仕切りのないワンフロア構造は、店同士の結束を強めた。商店主たちはアイデアを持ち寄って種々のイベントを企画。パラールは買い物客であふれかえった。伊東は「みんな笑顔で働いていた。つながりや絆がとても強かった」と懐かしむ。

 仮設で生まれたコミュニティーの力は多くの被災者に前を向かせた。

 「住宅に仮設があっても、人間の生活に『仮』なんてない」

 ケア付き仮設を引き継ぐ恒久施設として、98年秋に誕生したのが「グループハウス尼崎」だ。中村が理事長を務める社会福祉法人「阪神共同福祉会」が運営し、今も高齢者たちが24時間常駐する生活援助員の助けを借りながら共同生活を送る。

 中村は言う。「『群れる』重要性を震災が教えてくれた。ここでの生活を災害への『新しい備え方』として普遍化したい」=敬称略=

(金 旻革、竹本拓也)

2019/12/14
 

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