阪神・淡路大震災から四半世紀の経験を踏まえ、次の災害にどう備えるか。兵庫県の井戸敏三知事と神戸市の久元喜造市長がインタビューに応じ、震災の教訓や災害対策について語った。行政が対応すべき震災復興は終局に入ったとの見方では一致しつつも、井戸知事は復興住宅の高齢化など新たな課題を挙げたのに対し、久元市長は「100パーセント復興している」と強調、認識に差があることをうかがわせた。
-神戸の復興の現状をどうみるか。
「復興をどう捉えるかによるが、港湾など社会インフラにも街のたたずまいにも、震災の痕跡はない。訪れる人にも震災があったことを感じさせず、震災前より災害に強い街になった。かなり早い段階で復興し、今は100パーセント復興している。財政再建という試練も乗り越え、震災があったがためにできなかったまちづくりを進める」
-残る課題は。
「被災者に貸し付けた災害援護資金、新長田の再開発、借り上げ復興住宅に問題意識を持っていた。災害援護資金ではここ数年、何度も国に要望し、昨年、議員立法による(一定の要件で返済免除の対象を広げる)法改正があった。新長田では居住人口が震災前を相当上回り、残っていた工区も全てめどが立った。借り上げ住宅は退去を求める市の判断が裁判で全て認められている。いずれも、行政としては終局的解決をみている」
-震災の教訓とは。
「地震に対する備えがほとんどできていなかった。市民感覚でも、行政としても恐らく『神戸で地震は起きない』と思っていた。国は1978年に大規模地震対策特別措置法をつくり、駿河湾域を震源域とする東海地震に備えた。災害時の対応も机上の空論と言えるような内容だった。地震があたかも予知できるかのように法律までつくり、大自然の猛威に対し、傲慢(ごうまん)であり過ぎていた。罪深いと思う。地震はいつ、どこで起きるか分からない。国も自治体も本当に反省しなければならない」
-教訓をどう生かしたか。
「神戸市は地震だけでなく、災害に強いまちづくりに取り組んできた。水道施設が被災しても12日間分の市民の生活用水が蓄えられる『大容量送水管』が、震災から20年をかけて完成した。南海トラフ巨大地震では、最大級の被害『レベル2』の対策が本年度に完成予定だ。東日本大震災で水門を閉めるために消防団員が殉職した教訓も踏まえ、全国で初めて自動で開閉できるようにした。大きな犠牲を払って営々と災害対策を進め、かなり災害に強くなったと思う。ただ台風も巨大化しており、南海トラフの津波も想定通りに起きるとは限らない。対策は今後も続けていく」
-想定を超える災害が相次ぐ。
「危機には台風、地震、津波、高潮、集中豪雨など類型化されたもの以外にも、サイバー危機やパンデミック(世界的大流行)など想定し得ないものもある。阪神・淡路も、当時の市民にはそうだった。危機管理は想像力を鍛えることが大事だ。最近ではヒアリという未知の危険が発生したが、震災を経験し、職員の中に類型化される危機を超える感覚があったから的確に対応できたのではないか」
-庁内での継承は。
「OB職員の協力も得てさまざまな研修に取り組んでいる。いつまでも続けられるわけではないが、努力は続けたい。他の被災地への支援では、震災を経験した職員と全く知らない職員がペアを組む。目の前の災害対応という現実の中で、生きた形で経験が継承されることを目的に始められた。支援活動を続けることでわれわれ自身の災害時の対応力も鍛えられる」(聞き手・石沢菜々子、長谷部崇、撮影・鈴木雅之)
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