三陸の海をのぞむ商店街に、ソースの香りが漂う。昨年3月、宮城県南三陸町中心部の「南三陸志津川さんさん商店街」。神戸市長田区の大正筋商店街振興組合の人々が神戸・長田名物のそばめしを振る舞った。
「ともに被災経験があり、今では助け合う仲間になった」。9年前から町の商業再興に助言を続けてきた副理事長の伊東正和(71)は目を細める。
南三陸町は東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた。漁港近くの商店街は全滅。それ以前の2002年、長田であった全国商店街サミットから大正筋と南三陸の商店主は交流を深めていた。東日本大震災後、伊東らは支援に乗り出し、同町の特産物を神戸で販売したり、屋外灯を寄付したりした。
伊東が特に意識したのは、阪神・淡路大震災の“失敗”の経験を伝えることだった。伊東の茶販売店は25年前に全焼し、2カ所の仮設店舗を経て10年がかりで店を再建した。東日本大震災の1年後、仮設のさんさん商店街が開業。「仮設にお金をかけない」「本設からが本番。他にない魅力づくりを」と口酸っぱくアドバイスした。
3年前に本設開業にこぎ着けたさんさん商店街。催しなどに知恵を絞った結果、観光客の関心が集まり、約1年半で来場者は100万人を突破。同商店街運営会社代表の三浦洋昭(61)は「神戸の人たちからいろいろと伝授してもらえたおかげ」と感謝する。「長田の教訓が少しでも役に立てばとの思いだった」と伊東。再建の労苦が身に染みているからこそ、手を差し伸べずにはいられなかった。
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阪神・淡路大震災後の1年間、延べ137万7千人のボランティアが駆け付け、「ボランティア元年」とうたわれた。そしていつしか「恩返しを」との感情が被災地に芽生える。
兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長の室崎益輝(よしてる)(75)は言う。「兵庫からの被災地支援の動きは官も民も活発だ」
東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)への地方公務員の派遣人数は2019年4月時点で計1123人。都道府県別では神奈川県の計105人が最多で、県内に被災地を抱える岩手と宮城を除けば、兵庫は2番目に多い計61人に上る。近畿の自治体では突出した数字だ。
新潟県中越地震、九州北部豪雨、熊本地震…。そこにはいつも兵庫からの支援者の姿があった。被災地が次の被災地に経験や教訓を伝える。それは「被災地責任」とも形容され、被災地による支援の輪を広げてきた。
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阪神・淡路発の支え合いは海を渡る。神戸市兵庫区のNGO「CODE海外災害援助市民センター」は、これまで35の国と地域で63回の救援活動を実施。活動資金は寄付が中心だ。
前身の「地元NGO救援連絡会議」は阪神・淡路の2日後に設立された。その4カ月後、ロシア・サハリンで起きた大地震から支援に乗り出す。足元の被災地は2万人以上が避難所で暮らす混乱期だったが、毛布8千枚と防寒着を現地に届けた。
「阪神・淡路では世界70カ国余りが支援を寄せた。困ったときはお互いさま。支え合うことに上下関係も国境もない」。CODEの姉妹団体、被災地NGO恊働センター顧問の村井雅清(69)は強調する。助け合いの精神を受け継ぐことは、被災地の使命で在り続ける。=敬称略=
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