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災間を生きる 震災人脈

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尾池和夫・京都造形芸術大学長
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尾池和夫・京都造形芸術大学長

尾池和夫・京都造形芸術大学長

尾池和夫・京都造形芸術大学長

 「災間(さいかん)を生きる 震災人脈」特別編では、次の災害に立ち向かう「災前」の備えについて有識者の論を紹介し、命を守る知恵を共有したい。地震学研究の第一人者、尾池和夫・京都造形芸術大学長(79)と石橋克彦・神戸大名誉教授(75)は、近い将来必ず起きるとされる南海トラフ巨大地震に向けた社会制度や人々の心構えがいまだに不十分と指摘。ともに「地震と共存する意識を醸成すべき」と警鐘を鳴らす。(金 旻革、竹本拓也)

■「地震予報士」制度化を

 阪神・淡路大震災が起きる21年前に発表された調査報告書「神戸と地震」は、神戸での都市直下型地震のリスクを警告した。作成に関わった尾池和夫さんは、市民レベルで地震への理解を深めるため、国家資格としての「地震・火山予報士」の制度化を主張する。「天気予報のように、日本の地下活動について、日常的に繰り返し正確に伝えない限りは地震への警戒が身近なものとならない」。国が専門省庁を設置し、人材の育成・配置を求めている。

 気象庁のデータを分析し、独自で予報を出すことのできる「気象予報士」は1994年度に制度化され、全国で1万462人(10月17日時点)が登録。一方、地震には予報士制度がないため、気象の分野に比べ、基礎的な情報を市民に伝える人材が少ないという。

 尾池さんは「講演活動やマスコミへの発信などは個々の研究者任せだった」と指摘。地震の「予知」は現時点では難しいが、地震活動の状況や今後の見通しを「予報」として解説する有用性を訴える。「地震・火山予報士」が各地域における短期、中長期の地震予報を繰り返し発信することで、地震への関心を高めるのが狙いだ。

 地震活動は人命に関わる重要な防災情報であるにもかかわらず、科学的根拠の薄い予知情報も広まっている。尾池さんは「市民にとって真偽の判断が難しい情報も流れている。社会の無用な混乱を招く恐れがある」と懸念する。「予報士」制度の導入により、情報の信頼性を一定レベルで担保できるようになるという。

 具体的には、国が専門機関「地震・火山庁」を新設し、気象庁のように数千人の職員を配置することを提唱する。大学や機関ごとに蓄積されている地震研究を把握し、積極的に情報を公開するよう努める。尾池さんは「日本の地下活動の研究成果は全て社会に伝えるべきだ。それこそが命を守る防災情報となる」と強調する。

■断層上の公共施設規制必要

 -微小地震が活断層帯で集中的に発生していることなどを明らかにし、観測網の整備に関わった。地震学者でありながら活断層の研究者らと早くから行動を共にし、報告書「神戸と地震」の調査にも加わった。

 「1960年代末、山崎断層を発見した大阪市立大名誉教授の故藤田和夫さんと研究会をつくった。地震学者と地質学者による日本初の共同研究。当時、現場で活断層を見る地震学者は少数派だった。近い将来、西日本で地震が頻発する『活動期』に入ることは分かっていた。それでも阪神・淡路大震災が起きることまでは分からなかった」

 -「地震・火山予報士」の制度化を提唱している。

 「平時から地下の活動状況を広報する人材をつくるべきだ。週1回でいい。週間天気予報のような目線で、短期と中長期予報を定期的に世間に流す。国家資格の『地震・火山予報士』が表舞台に出れば、地震情報はもっと身近になる」

 「気象庁内で『余震後に別の大きい揺れがあったときに説明に困るから、余震という言葉は使わない方がいい』との議論があった。むしろ余震とは何かを丁寧に伝えるのが役目だろう。例えば、1927年の北丹後地震は余震が100年近く続いている。住民に過去の地震と関連付けて解説することは重要だ」

 -国に設置を求めている「地震・火山庁」に期待することは。

 「学校などの公共施設を断層の真上に建てるのを規制する『活断層法』の整備だ。阪神・淡路では、活断層という言葉にようやく注目が集まり、住宅耐震化の普及につながった。自治体が全ての活断層を診断し、危険なものは監視の対象に指定する」

 -地震予知の今後は。

 「現時点で直前予知は無理だが、地震予知研究が役に立たないという見方は誤解だ。たとえ空振りでも積極的に地震の予報を出す必要性を痛感する。南海トラフ巨大地震のように、巨大地震が確実に起こると分かっている場所は世界でも珍しい。予知をタブー視せず、前兆現象の解明を進めなければいけない」

【地震予知】地震が起きる場所、時間、規模の3要素を高い精度で予測すること。直前予知とも言われる。地震学者有志が1962年にまとめた文書「地震予知・現状とその推進計画」(通称・ブループリント)を根拠に、65年から政府が実用化に向けた研究事業「地震予知計画」に着手。大学や気象庁などが参加し、観測網の整備や地震予知連絡会の設置につながった。

 だが、95年の阪神・淡路大震災を機に、政府は「直前予知は当面難しい」と方針を転換。原則5年ごとに更新されてきた予知計画は98年度の第7次で終了した。

2019/10/26

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