阪神・淡路大震災は、さまざまな場面で新しい取り組みを生み、それまで見えなかった課題を浮き彫りにした。「支援ボランティアへの支援」「外国人との共生」「トイレ環境の改善」-。それぞれのテーマで、室崎益輝(よしてる)・兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長(75)▽吉富志津代・多言語センターFACIL(ファシル)理事長▽加藤篤・日本トイレ研究所代表理事(47)-の3人に、今、なすべきことを聞いた。共通する思いは「震災の教訓は十分に根付いていない」との危機感だ。(金 旻革、竹本拓也)
■外国人も地域社会の担い手/多文化共生へ助け合いを
阪神・淡路大震災は、地域に暮らす外国人が日本人と同じ被災者であることを多くの人に認識させた。言語の壁などによって疎外感を抱えた外国人を支援するため、吉富さんは多文化・多言語コミュニティー放送局「FMわぃわぃ」(神戸市長田区)の設立に携わった。情報が多文化共生の基礎になるとし「多様な人たちの暮らしや命を守る助け合いの精神を普段から共有してほしい」と訴える。
24年前、被災した外国人は情報格差の壁にぶち当たった。地震が発生している状況が把握できず「津波が来る」と誤解する人も。日本語が分からないベトナムやスペイン語圏の出身者に向けた情報発信は乏しかった。逆に、神戸市長田区で起きた大火で「ベトナム人が火を付けた」というデマが流れ、外国人へのいわれのない疑心暗鬼が社会に影を落としたこともあった。
吉富さんは「多様な背景を持つ人々をつなぎ、地域に声を届ける場が重要」と考え、1995年7月にわぃわぃを開局。3年前にはインターネット放送に移行。現在は10言語に拡大し、外国籍のみならず、障害者や高齢者も含め、地域が助け合えるコミュニティーづくりに貢献する放送に取り組む。
震災をきっかけに広がった多文化共生の輪。ただ、吉富さんは「メンテナンスが不可欠」と強調する。
JR鷹取駅近くにある神戸市長田区の大国公園では、震災前まで日本人のみが参加していた夏祭りに、地元のベトナム人や韓国人らが加わり、親睦を深めた。しかし震災から10年以上たったある年、一部の参加者がペルー人の屋台を露骨に不審がる態度を示したという。吉富さんは「歳月がたつと町の歴史を知らない世代も増える。伝え続けなければ共生の理念は後退してしまう」と警鐘を鳴らす。
震災は助け合いに脚光を当てた。しかし「外国人の存在は忘れられやすい」と、吉富さんは指摘する。「病気やけがなどが原因で、誰もがマイノリティー(少数者)の立場になり得る。外国人も社会の担い手と捉え、共生への努力を忘れないでほしい」
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