災害のたびに、被災者支援の法制度に課題があることが浮き彫りになる。被災者生活再建支援法をはじめ、さまざまな支援制度があるが、対象者が要件などで複雑に「線引き」されているからだ。一方、「被災者総合支援法案」や「災害ケースマネジメント」といった「一人一人の復興を切れ目なく」目指す制度を求める動きも出ている。災害法制に詳しい専門家3人に、支援制度の現状と将来像を聞いた。(金 旻革、竹本拓也)
■「最大600万円支給」を提唱
被災者の住宅再建支援を巡り、現行法制の手薄さが指摘されている。関西学院大災害復興制度研究所(兵庫県西宮市)が昨年8月、発表した「被災者総合支援法案」は、国などが住宅再建・購入に最大600万円支給することを提唱する。被災者生活再建支援法が定める支援金(最大300万円)の倍額に上る。法案作りの中心となった関西大社会安全学部教授の山崎栄一さん(48)は「被災者自身が自分に合った復興の道を選べる額を意識した。仮設住宅の建設戸数が減れば、行政の負担も軽くなる」と強調する。
被災者生活再建支援法は、2度の大改正で支給額が最大300万円まで増額された。ただ、支給対象は「全壊」「大規模半壊」世帯に限られ、「半壊」と「一部損壊」は対象外。昨年10月の台風19号で自宅が「一部損壊」と判定された被災者からは「支援の線引きだ」との不満が噴出した。
被災者支援法制の一本化をうたう法案では、半壊以上を対象に最大600万円の住宅再建・購入費用を支給する。支援金に地震保険と自己資金を600万円ずつ加え、被災世帯が計1800万円で生活再建を目指すという制度設計だ。
2018年9月の北海道地震では、仮設住宅1戸の整備に1千万円以上かかったケースがあった。山崎さんは「自宅に住み続けられる人が増えれば、仮設の建設戸数も減る。600万円支給は財政的にも合理的だ」と主張する。
自宅修理を望む場合、半壊以上で最大300万円、一部損壊で最大100万円の修理費を受け取れる。災害救助法と被災者生活再建支援法にまたがる修繕費用への支援制度を統合し、支給上限額を引き上げた。がれきなどの撤去は「公費で賄う」と明記。家財購入費用も別途支給される。自宅に住むのが難しければ、最大5年程度の家賃補助を受ける選択肢もある。
住宅再建に手厚い支援を盛り込んだのは、山崎さんが阪神・淡路や東日本大震災の被災地で、「一日も早く住まいを再建したい」という被災者の切実な声を聞き取ってきたからだ。山崎さんは「誰一人見捨てられない仕組みを実現させたい。法案への理解を求める活動も進めたい」と力を込める。
【被災者総合支援法案】被災者支援制度が定められている主要な4本の法律を一本化した法案。4本は、(1)避難所提供や食料の配布などを規定した災害救助法(2)防災について国や自治体の役割を定めた災害対策基本法(3)遺族に最大500万円を支給する災害弔慰金法(4)住宅再建に最大300万円を支給する被災者生活再建支援法。災害直後の応急救助から長期的な生活再建までの被災者支援を網羅し、震災障害者への見舞金の支給要件緩和や、家財購入費の支給なども盛り込まれている。
2020/2/1【結び】次代へ 災害の悲しみ繰り返さない2020/3/28
【結び】次代へ 被災地の「遺伝子」を継ぐ2020/3/28
【16ー2】市民社会 助け合いから芽生えた協働2020/3/21
【16ー1】市民社会 地域に根差す「新しい公共」2020/3/21
【特別編】防災の普及・啓発 世界21か国で開催「イザ!カエルキャラバン!」2020/3/14
【特別編】防災の普及・啓発 カード形式で震災疑似体験「クロスロード」2020/3/14
【15ー2】つながる被災地 「恩返し」の心意気息づく2020/3/7
【15ー1】つながる被災地 「責任」負い、次なる災害へ2020/3/7
【14ー2】診るということ PTSD、後遺症…耳傾け2020/2/29
【14ー1】診るということ 救えた命と心 医師の苦悩2020/2/29
【特別編】阪神高速倒壊訴訟 高架道路崩壊の責任問う2020/2/22
【13ー2】復興住宅 地域の福祉力 支え合いが鍵2020/2/15
【13ー1】復興住宅 「鉄の扉」、孤絶した被災者2020/2/15
【12ー2】まちづくりの苦闘 つながり再生へ、対立と融和2020/2/8
【12ー1】まちづくりの苦闘 住民散り散り、再建の壁に2020/2/8
【特別編】被災者支援の将来像 現金支給で迅速な支援を 元日弁連災害復興支援委員会委員長弁護士 永井幸寿氏2020/2/1
【特別編】被災者支援の将来像 災害ケースマネジメント 日弁連災害復興支援委員会委員長 津久井進氏2020/2/1
【特別編】被災者支援の将来像 被災者総合支援法案 関西大教授 山崎栄一氏2020/2/1
【11ー2】復興基金と支援会議 現場主義、暮らし改善提言2020/1/25
【11ー1】復興基金と支援会議 「参画と協働」の原点に2020/1/25
【特別編】井戸敏三・兵庫県知事インタビュー 「事前の備え」訴え続ける2020/1/19
【特別編】久元喜造・神戸市長インタビュー 危機管理 想像力を鍛えて2020/1/19
【10ー2】悼む 一人一人の犠牲と向き合う2020/1/11
【10ー1】悼む 記憶共有「言葉が力を持つ」2020/1/11
【9ー2】生活再建支援法 国の「壁」破り個人補償へ2019/12/28
【9ー1】生活再建支援法 被災者救済、市民力の結晶2019/12/28
【8ー2】仮設の日々 人間の生活に「仮」はない2019/12/14
【8ー1】仮設の日々 「つながり」孤独死防ぐ命綱2019/12/14
【7ー2】3・17ショック 日程優先、住民不在の復興案2019/12/7
【7ー1】3・17ショック 合意なき計画多難の船出2019/12/7
【特別編】浮かび上がった課題 支援ボランティアへの支援 兵庫県立大大学院 減災復興政策研究科長 室崎益輝氏2019/11/30
【特別編】浮かび上がった課題 外国人との共生 多言語センターFACIL理事長 吉富志津代氏2019/11/30
【特別編】浮かび上がった課題 トイレ環境の改善 NPO法人日本トイレ研究所代表理事 加藤 篤氏2019/11/30
【6ー2】倒壊の現場 生き方変えた眼前の現実2019/11/23
【6ー1】倒壊の現場 被害の実相 教訓見いだす2019/11/23
【5ー2】混乱の避難所 思いやり、苦境分かち合う2019/11/16
【5ー1】混乱の避難所 過酷な環境、相次いだ関連死2019/11/16
【4ー2】ボランティア 助け合う尊さみな実感2019/11/9
【4ー1】ボランティア 自ら動く被災者のために2019/11/9
【3ー2】危機管理 「心構え」なく初動に遅れ2019/11/2
【3ー1】危機管理 「迅速な全容把握」なお途上2019/11/2
【特別編】地震と共存する 石橋克彦・神戸大名誉教授2019/10/26
【特別編】地震と共存する 尾池和夫・京都造形芸術大学長2019/10/26
【2ー2】午前5時46分 眼前で人が火にのまれた2019/10/19