災害のたびに、被災者支援の法制度に課題があることが浮き彫りになる。被災者生活再建支援法をはじめ、さまざまな支援制度があるが、対象者が要件などで複雑に「線引き」されているからだ。一方、「被災者総合支援法案」や「災害ケースマネジメント」といった「一人一人の復興を切れ目なく」目指す制度を求める動きも出ている。災害法制に詳しい専門家3人に、支援制度の現状と将来像を聞いた。(金 旻革、竹本拓也)
■「個々を救う」視点が必要
阪神・淡路大震災を機に制定され、最大300万円の支援金を支給する被災者生活再建支援法は、今や被災者にとって欠かせない制度となっている。しかし、被災から立ち直るためには働く場の確保や傷ついた心のケアなど、資金面以外の支援にも目を向ける必要がある。日弁連災害復興支援委員会委員長の津久井進さん(50)は、被災者個々の生活再建計画を考える「災害ケースマネジメント」を提唱し「一人一人を救える制度が重要だ」と訴える。
約46万世帯分の住宅が全半壊した阪神・淡路では、住まいの再建が復興の最も大きな課題だった。被災者が声を上げて成立した支援法は、2度の大改正で公的補償を実現した。だが、東日本大震災では津波で住宅と働く場が奪われ、原発事故による強制避難で地域コミュニティーが喪失。心身の健康悪化や失業、孤立などを抱えた被災者の復興への道筋は複雑化した。
津久井さんは「家を建て直すお金を支給するだけの支援法は時代にそぐわなくなった」と指摘。被災者の状況に応じて支援計画を立案する災害ケースマネジメントに着目する。被災者ニーズに応じて必要な情報提供や相談業務、見守りなどを行い、日常を取り戻す手助けを担う手法だ。「支援金と支援者がセットになってこそ生活再建は達成できる」と津久井さんは強調。日弁連として2016年2月、支援法において同マネジメントの制度化を求める声明を出した。
国内では東日本大震災以降に自治体レベルで取り組みが進んでいる。鳥取県では16年に起きた地震をきっかけに、18年度から同マネジメントを全国で初めて条例化。県の外郭団体の職員が被災者の悩みなどを尋ね、経済的に困窮して住宅再建を諦めている人々のために工事業者と価格交渉するなどしている。
「次々と災害が起きる中で救われない人が相次いでいる」と津久井さん。17年の九州北部豪雨で被災した福岡県朝倉市では、住宅再建のめどが立たない被災者がいるにもかかわらず、仮設住宅の撤去が決定。行政が原則2年の入居期限の延長を認めず、途方に暮れる被災者が生まれている。「被災者が『今の制度ではおかしい』という思いを共有し、声を上げてほしい」
【災害ケースマネジメント】被災世帯を訪問して一人一人の生活状況に応じて支援計画を策定し、法律や雇用、福祉などの専門家が再建を継続的に支援する仕組み。米国で2005年にあったハリケーン・カトリーナによる被害の際に連邦緊急事態管理局(FEMA)が始めたとされる。国内の導入の先駆けは仙台市で、東日本大震災の被災者をシルバー人材センター職員が戸別訪問して実情を把握。必要な支援計画を策定し、就労支援のNPO法人や弁護士などと協力して支援に取り組んだ。
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