防災教育は阪神・淡路大震災をきっかけに機運が高まったが、堅苦しいイメージがつきまとう。そこで「楽しい」「ためになる」を追求した神戸発の取り組みを紹介したい。防災訓練に挑み、おもちゃを入手できるプログラム「イザ!カエルキャラバン!」は子どもたちに大人気で、海外にも広まる。カードゲームの「クロスロード」は災害時に直面する葛藤を追体験でき、阪神・淡路の教訓を今に伝える。(金 旻革、竹本拓也)
阪神・淡路大震災の教訓から開発された親子参加型の防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」。救出・救護の知恵などをゲーム感覚で学べる体験ブースと、おもちゃの交換会を組み合わせ、その多彩なメニューから「防災教育の見本市」とも評される。全国で500回以上、世界21カ国でも開催実績がある。考案した神戸市のNPO法人プラス・アーツ理事長の永田宏和さん(51)は「災害時に子ども自身が地域で生き抜く力を身に付けてもらいたい」と話す。
「イザ!カエルキャラバン!」は、次世代に防災を楽しく学んでもらおうと永田さんらが2005年に開発。「いざというとき、真に役立つ知恵や技は被災者にこそある」との考えから、被災者約50人に聞き取りし、カエルをモチーフにしたデザインやゲームを取り入れたプログラムを練った。
今年2月初め、神戸市中央区のHAT神戸で開かれたキャラバン。紙でスリッパや食器を作る「図工室」、毛布で作った即席担架でカエルのキャラクターを運ぶリレーなどに、多くの親子が参加した。災害時に役立つ英会話や、住民全員が津波から逃れたという和歌山県の逸話「稲むらの火」の紙芝居などもあった。
参加者は、体験ブースへの参加や不用のおもちゃを持参することでポイントがもらえる。ポイントをためた子どもたちはおもちゃの交換会「かえっこオークション」に集まり、お目当てのおもちゃの落札を目指す。この日は50色入り色鉛筆を巡って「競り」が続き、会場が熱気に包まれた。神戸市灘区の女性(43)と小学1年の長男(7)は「落札できず悔しい。次はもっとたくさんの防災体験に参加したい」と話した。
同キャラバンは11年の東日本大震災を機に実施依頼が急増。地域団体や企業が同法人による講習を受け、資機材を借りて運営する方式だ。18年の西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市の真備地区でも昨年11月、地元中学生の手で開かれた。同法人によると、20年度はほぼ毎週、どこかで開催が予定されているという。
永田さんは「キャラバンは地域ごとに独自のアイデアを加えながら進化する。今後は災害の多いアジアを中心に、国の事情に応じた教材開発も進めたい」と力説する。
■NPO法人プラス・アーツ理事長 永田宏和さん 親子で楽しめる教材開発が大事
-防災教育に関わったきっかけは。
「阪神・淡路大震災で、中学まで過ごした西宮市森具地区が壊滅的な被害を受けた。少しでも復興を手伝いたかったが、当時の仕事の都合でかなわなかった。ずっと後ろめたさを感じていたが、神戸市などが進める震災10年事業に関わる中で、教訓の語り継ぎが課題と知った。家族で思いっきり楽しく笑顔で学べる防災教育プログラムを作りたいと提案した」
-ゲームやマスコットキャラクター作りなど、楽しむことにこだわった。
「被災地ですら多くの人がつまらなさそうに防災訓練に参加していた。内容は有益なはずなのに、主催者は『人が集まらない』と嘆く。この状況を打破したかった。当初は『ふざけている』と批判されたが、ブースを回った子どもたちの表情が変わっていくのに親たちが気付いた。共助を課題とする地区単位のニーズも高く、住民がバスツアーを組んで訪れることもある」
-プラス・アーツの強みは。
「教材開発の力だ。災害のたびにニーズを拾う労力は惜しまない。新しい防災ゲーム開発には1年半から2年かけ、商品化の前には必ず園児や教員らへのテストを繰り返す。質でどこにも負けない自信がある」
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