ゴールデンウイーク(GW)も後半に差し掛かった5月初旬、神戸市東灘区の街角には3年ぶりの祭りばやしが響いた。新型コロナウイルス禍で一昨年、昨年と中止が続いた「だんじり巡行」の再開だった。開催のぜひを巡る地域間、地域内での葛藤を経て、迎えたハレの日。各地区の舞台裏を追った。
■「まん防」解除で高まった機運
東灘のだんじり巡行は2019年を最後に途切れていた。その年は令和元年。改元を記念し、神社の例祭とは別に近隣の芦屋や西宮市を含む総勢45台の豪華絢爛(けんらん)なパレードも行われた。
一転、新型コロナの影響で20年、21年と連続で巡行中止に。東灘区制70周年を記念するだんじりパレードも順延を繰り返している。
東灘区では、だんじりが出る春祭りの大半がGWに合わせて5月3~5日に集中する。開催の有無は各神社がおのおの判断するが、過去2年はともにGW中に「緊急事態宣言」が発令され、軒並み中止になった。
今年は「まん延防止等重点措置」が3月22日に解除され、開催機運が高まっていた。5月に東灘区内13カ所の神社で行われる春祭りのうち、横屋八幡神社(東灘区魚崎北町2、1台)を除く12カ所の計31台が、いずれも3年ぶりの巡行を決めた。
■苦肉の対策 将来の「羅針盤」
各地の例祭の宵宮、本宮が重なり、まちがだんじり一色になった5月4日。区内で最もだんじり祭りの歴史が古いとされる保久良神社(東灘区本山町北畑)は宵宮を迎えた。
ふもとの鷺宮八幡神社(同区本山北町6)では例年、4地区の集結と練り合わせが祭りのハイライトとなる。だが、この日は夕方から1時間おきに1台ずつ交代で宮入りが行われた。
「当初は全部そろってやりたいなという意見が多かったけど、やっぱり無理があるなと」。氏子協議会のメンバーが振り返る。
昨秋、2年ぶりにだんじり祭りが行われた大阪府岸和田市では、市がホームページなどで観覧自粛を呼び掛け、沿道には目隠しの幕が張られていた。
「だんじり巡行と密集対策はセット」という大前提で計画を進めた保久良の春祭り。最初に北畑地区のだんじりが宮入りし、家族らが見守る中で境内を周回した。
「例大祭が帰ってきました」。マイクを持った神職は歓喜のあいさつののち、余韻には浸らずに呼び掛けた。「『疫病退散』じゃありませんが、もう次が来ますので、皆さん境内から退場してください」
氏子たちは拍手で応じて従った。ある高齢男性は「物足りなさも当然あるが、『あの時代にもこういう形なら開催できた』と、将来別の壁にぶつかったときの羅針盤になるでしょ」と、にこやかに話していた。
■恐れた「世間の目」
東灘区内で最大規模を誇る本住吉神社(同区住吉宮町7)の例祭は5日に本宮を迎えた。太陽が照りつける正午ごろ、みこしを先頭に大小8台のだんじりが順に境内を出て行った。
「思ってたより人がいて良かった」。運営する「住吉地車振興会」役員の男性は胸をなで下ろしていた。
本住吉神社でも保久良や弓弦羽神社(同区御影郡家2)と同様、宮入りを時間差にする密集対策を取り入れる一方、男性の中ではある不安が消えていなかった。「今年は引き手が足りなくなるんじゃないか」
実際、本番が迫る4月になっても近隣の公民館や掲示板には、「だんじり引き手 追加募集」「だんじり曳行 参加者大募集」と書かれたポスターが貼り出されていた。
「コロナ禍のこの2年で静かに過ごすGWに慣れた人は多く、祭り離れが加速する」というのが、男性の肌感覚だった。県内外で感染収束がほど遠い中、参加をためらう声も少なからず耳に届いた。「シンプルに感染を恐れるというよりも、皆、世間の目が気になっている感じでしたね。バッシングが怖いのは、運営側としてもよく分かりますし」
来年以降の感染状況もどう転ぶか全く読めないため、今年はやると決めた。非難も覚悟、腹をくくったというのが正確かもしれない。全地区のだんじりが力強く鳥居を出て行くのを見て、「やっぱり祭りはいい」と再認識できた。
「どっちを選んでも賛否はあるだろうし、何が正解かなんてたぶん誰にも分からない」と、男性は言う。「でも、だんじりは確かに地域をつないでいる。だから絶対に途絶えさせたくない。各地で久々にだんじりが出た、一番大きな理由じゃないでしょうか」
■3地区が挙げた開催条件とは
神社の春祭りとは別に、広域のだんじりが一堂に会する二つのパレードがある。本山エリアは中止したが、御影エリアは開催に踏み切った。
御影の開催が決まったのは4月上旬。会議の席上、練り場となる商業施設、御影クラッセ前に「参加する9台を全部並べる」という方針を示した主催者の御影連合会に対し、3地区の代表者が「それならうちは出ない」と申し出た。
参加の条件は、簡略化による感染対策だという。
実は、別の2地区が神社の例祭日程との兼ね合いで、既にパレードの辞退を決めていた。さらに3地区が不参加となれば、本来の半分の規模になってしまう。
連合会としては、「2年の我慢」を背景に盛大なパレードを望む声に応えたいところ。パレードたるには、参加地区を減らさないこともまた重要だった。
「ちょっと今から時間をください」。御影連合会の役員たちはいったん席を立ち、別室で協議した。
約15分後、対案が示された。「練り場には2台しか並べず、他は離れて順番を待ってもらう形にする」。出席者の一人は「難しい判断だったと思う」と振り返る。
「地区、連合会、それぞれに立場はある。でも、安全に、かつ皆で作り上げたいという思いは誰もが同じだった。そういうことじゃないでしょうか」
■「礼装」にあらずとも
パレード当日の5月3日午後6時。阪神御影駅前の練り場に先頭の「中之町」のだんじりが入った。
「まーわせ、まわせ」
この日のために紺色、紋章入りでそろえたマスク越しに声を合わせる。歯を食いしばってだんじりを担ぎ、反転させる氏子たち。屋根の上では命綱をつけた若衆が空中に身を乗り出してしなやかに舞い、赤色のはたきを振る。
薄暮の空に、リズムを刻む太鼓の音がよく響いた。ムードが盛り上がる一方で、主役たるだんじりの姿は例年とは異なった。だんじりの中で、太鼓のばちを激しく上下させる乗り子の姿が、丸見えだった。
氏子たちによると、これは非常に珍しい光景らしい。通常、祭りの日のだんじりは、竜などのきらびやかな刺しゅうが入った飾り幕に覆われている。これがまるごと外されていた。
「空気を入れ替えるためです」と自治会長の杉本憲一さん(74)が教えてくれた。「私は『こんなんあかん』と思ってました。でも、そうじゃなかった」
杉本さんは「飾り幕はだんじりの礼装。それを外すのは神様の前に裸で出すようなもの」と反対してきた。だが、パレードの数日前に引き手候補の感染が判明し、状況が変わった。地区としての「パレード不参加」が急きょ選択肢に上る中、「出すなら最大限の感染対策を」と、最後の最後で青年会が決断したという。
観衆の前で15分ほどのパフォーマンスを終え、華やかな練り場を後にしたときだった。数人の見物客が杉本さんのもとに駆け寄ってきて言った。
「乗り子が中で躍動してるのが見えて、素晴らしかったですね」
(井上太郎)

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