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飛び降りを制止したときの状況を振り返る野村一右軌さん=神戸市東灘区の六甲大橋
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飛び降りを制止したときの状況を振り返る野村一右軌さん=神戸市東灘区の六甲大橋
野村さんが飛び降りようとする男性を制止した六甲大橋=神戸市東灘区向洋町西1から撮影
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野村さんが飛び降りようとする男性を制止した六甲大橋=神戸市東灘区向洋町西1から撮影
県の「のじぎく賞」を伝達される野村一右軌さん=東灘署
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県の「のじぎく賞」を伝達される野村一右軌さん=東灘署

 神戸市東灘区の住吉浜町と六甲アイランドを結ぶ「六甲大橋」で4月、海への飛び降り自殺を図った男性を通りすがりの会社員が制止した。現場は、海面から高さ約20メートルの欄干。身を乗り出す人影に気付いて思わず止めに入ったという。(井上太郎)

 ■「落ちたら終わり」

 4月28日、木曜日の午後7時25分ごろ。六甲アイランドに向かって橋の西側歩道を自転車で走っていた会社員の野村一右軌(かずゆき)さん(27)=神戸市中央区=は、前方に不穏な人影を見た。

 遠目には欄干から海側に、上半身を乗り出しているように見えた。周辺にはガントリークレーンやコンテナバースが広がる。最初は「工場夜景の写真でも撮ってるのかな」とも思ったが、近づくにつれて分かった。「やっぱりおかしいぞ」

 歩道には自転車が倒れ、かばんが無造作に落ちていた。

 そのそばの欄干に、若い男性がまたがっていた。体の7割方は海側へ傾き、歩道側にはもう左足しか残っていなかった。

 全長400メートルある長い橋のちょうど真ん中あたりで、最も高さのある場所だった。はるか下で、にび色の水面が不気味に揺れている。「あかん」「こんなん落ちたら終わり」。野村さんは慌てて駆け寄った。「お兄さん、大丈夫ですか?」

 声に気付いた男性は野村さんの方へ振り向き、何かをつぶやいた。背後をトラックが行き交う音でよく聞こえなかったが、「精神的に参ってそう」と感じた野村さんは男性の体をつかみ、歩道に引き戻した。

 ■1人にはできない

 男性は、野村さんと同年代か少し年上ぐらいに見えた。「何かあったんですか」と尋ねても男性はうなずくぐらいで、会話は続かなかった。上の空で、放心状態に見えた。

 用事があって先を急ぐべきか迷ったが、野村さんはその場を離れなかった。

 「あなたは悪いことをしたんじゃない」「でも、あなたを今1人にはできない」。安全そうな歩道の内側に寄って説得すること約10分。最初は嫌そうだった男性も納得というか、理解を示してくれるようになった。「申し訳ないけど、連絡だけはさせてください」。丁寧に断ってから110番した。

 立ち入ったことを通りすがりの他人に聞かれたくないだろう。そう思い、駆け付けた警察官が男性と話す間はそっと距離を取った。

 東灘署によると、飛び降りようとしていた男性は32歳で、迎えに来た家族は野村さんに感謝していたという。同署は5月12日、野村さんに、人命救助をたたえる県の「のじぎく賞」を伝達した。武田英雄署長は「本当に勇気がいる行動。適切に対応していただいて感謝します」と、表彰状を手渡した。

 野村さんは「後で冷静に下を見たら怖かった。反射で動いたのが、結果的には良かったのかな」と胸をなで下ろす一方、「けががなくて、無事だったことは素直に良かった。事情は今も、これからも知る立場ではないけど、とにかく元気で過ごしていてほしいなと思う」と話していた。

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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