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 街角でポイ捨てされているゴミをスマートフォンで撮影し、写真を投稿すると自動でマッピングされるゴミ拾い専用の交流サイト(SNS)「ピリカ」。誰がどこで何をどれだけ拾ったかをユーザー同士で閲覧し、コメントを送ってねぎらい合う。アイヌ語で「美しい」を意味するこのアプリは、神戸市東灘区の六甲アイランドで少年期を過ごした小嶌不二夫さん(35)が2011年に開発し、国内外で着実にユーザーを増やしている。アイデアの源と、ピリカを通して実現したい社会について聞いた。(文中敬称略)

(井上太郎) 

■流出<回収

 「2億個突破しました!」

 2021年9月17日、ピリカを通じて拾われたゴミの数が世界111カ国で累計2億個を超えた。アプリの公開から10年。ブログを更新した小嶌は興奮冷めやらぬ様子でこうつづった。

 「今、この文章を書いている瞬間にも、一つ、また一つとごみを拾っていただいていて、ごみが回収されるスピードは今も加速し続けています。我々の目指す『自然界に流出するごみの量と回収されるごみの量が逆転した未来』も、きっとこの先にあるはずです」

 ポイ捨てされるゴミの量よりも多くのゴミが拾われる-。小嶌が目指す社会は明快ですがすがしい。その原点を知るため、時計の針を巻き戻そう。

■どす黒い海

 小嶌は小学校に入学するタイミングで、富山市から神戸・六甲アイランドに引っ越した。住みやすく、港町の雰囲気も気に入ったが、純粋無垢(むく)な少年の目には都会の悪い面もよく見えた。

 「富山市の故郷もそれほど郊外ではないんですが、近くで一番高いビルが5階建てのアパートぐらい。でも、六甲アイランドでは当時タワマンのはしりみたいな40階建てのビルもあって、明らかに違うなという印象でした」

 富山のほうが空気がきれい-。排ガスを残して行く車列を見て、子どもながらにそう感じた。

 「工業地帯の、全然かいだことない独特の匂いにもちょっと違和感があった。神戸港が港で深いからというのもあるんでしょうが、海も割とどす黒い色をしていて。青くはなかった。当時は赤潮とかも頻繁に発生していた頃で、すごいインパクトはあった」

 小嶌は体が強い方ではなく、何かのスポーツで一番になることも、友達が憧れるようなスポーツ選手になりたいと思うこともなかった。一方で、少年らしい「ヒーロー願望」はあった。

 ウルトラマンのように巨大な怪獣をやっつけられたらすごくかっこいいだろうな-。そんな妄想にふけっても、現実には「バルタン星人」のような、「やっつけるのに手頃な怪獣」は世の中に出てこないこともなんとなく分かっていた。

■開眼と不安

 そんな小嶌少年が小学2年のとき、その後の人生を左右する本と出合う。学校の図書室で見つけた、全7冊の「地球の環境問題シリーズ」(ポプラ社)。核の問題、酸性雨、森林破壊、エネルギーなど、1冊ずつテーマが決まっていた。手に取った理由まではよく覚えていないが、気付けば夢中になってページをめくっていた。

 「どれもすごく大きくて面白そうな問題に見えました。で、なぜかそれを、『将来自分で解決したいな』と思うようになったのが、最初のきっかけですね。元々、図鑑とか理系分野の事柄とか、本も割と好きな方だったんですが、特別その本に興味を持って」

 その中に、ゴミの問題も詳しく書かれていた。

 「僕が知る限りでは地球環境問題が世の中で一番大きな問題に見えて、これを『やっつけられる』とすごい面白いと思った。そのためにはいろいろと勉強しないといけないなと。あと、それ以上に強く思ったのは『別の誰かに解決されちゃったら嫌だな』ということ。自分の手で解決したい訳ですから。大人になるまでに誰かが解決してしまったらどうしようと、とにかくそれを不安に思っていたのを覚えていますね」

 科学の世界に関心を持った小嶌少年は中学校卒業後、神戸高校、大阪府立大を経て京都大大学院に進学。ところが、2009年に小嶌は突如、大学院を休学する。(次回に続く)

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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