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大学院を休学し、世界一周の旅に出ていた小嶌不二夫さん(ピリカ提供)
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大学院を休学し、世界一周の旅に出ていた小嶌不二夫さん(ピリカ提供)
ゴミ拾いSNS「ピリカ」を開発した小嶌不二夫さん(ピリカ提供)
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ゴミ拾いSNS「ピリカ」を開発した小嶌不二夫さん(ピリカ提供)

 神戸市東灘区の六甲アイランドで過ごした小学生時代、「地球の環境問題シリーズ」(全7冊、ポプラ社)に夢中になった小嶌不二夫さん(35)は将来、環境問題を解決する「人類のヒーロー」のような研究者を志して猛勉強し、京都大の大学院に進学する。科学者のキャリアを順調に積んでいくはずだったが、2009年に突如休学する。(文中敬称略)

(井上太郎) 

■「部分」ではなく「全部」

 神戸高校を卒業した小嶌は、大阪府立大の工学部で「ヒートアイランド現象」について研究。当時、キャンパスのある堺市がなぜ「真夏日ナンバーワン」の不名誉な記録を頻発するのかを調べ、「温度計が温風を受けやすい場所に設置されている」ことを突き止めた。京都大大学院でも環境系の研究を続けたが、次第に心の中で「これじゃないかも」という迷いが生じた。

 「研究というのをやってみて分かったのは、僕がやりたい問題解決という長いプロセスのうちの、割と『部分』しかできないことでした」

 何か新しい問題、あるいは解決策を見つけ、調べる。論文を書き、人類の知識をアップデートしていく。それが研究者の役割であると、小嶌は感じていた。ところが、自分がやりたいことはその先にあった。

 「新しい技術や知識、知見を使って具体的に問題を解決していく、そうした仕事やサービスを作る大部分を担うのは、企業です。もちろん研究はすごく大事。でも僕は両方というか、全部をやりたい」

■気付いたある体質

 研究者というキャリアでは自分が望む「問題解決」ができない。そう思う理由がもう一つあった。

 「研究者って、人生を懸けて割と一つのテーマを追い求める。でも、僕が読んだ本は、1冊ずつ違うテーマで、7冊あった。このままじゃ一生のうちどれか『1冊分の問題』しか解けないじゃないか、と。一方で、ビジネスなら一つの事業で収益が上がれば他の分野に再投資できる」

 一度、ビジネスというものを経験してみたい。せっかくなら英語も話せるようになりたい。海外に行くなら、環境問題が日本より深刻そうな国でその現状を見ておきたい。大学院を休学してベトナムへ渡った。

 インターンで半年間、現地企業の営業マンとして働いた。成績は良く、仕事は楽しかったが、あることに気付いた。「どうやら上司とはもめる体質みたいだ」

 振り返ると、大学でも大学院でも、教授とは衝突しがちだった。確率に直すと、3分の3。それは「僕の方に問題があることを示していた」。研究ではなくビジネス。とはいえ会社員には不向きな性格。残った選択肢が、起業だった。

■ゴミの「マイナーリーグ」

 そこで、今度は世界1周の旅に出る。目的はただ一つ、ビジネスのアイデアを見つけること。大気汚染や水質汚染の問題は、新興国に必ずと言っていいほど見受けられた。ブラジルではアマゾン熱帯雨林の森林破壊に衝撃を受けた。どれも深刻だとは感じたが、「事業」という意味では何も思い浮かばなかった。失意のまま帰国し、断片的に書きためたメモを繰って思考をめぐらせる。

 この旅で小島が興味を持ったのが、「マッピング」だった。新しいもの好きの小嶌は、当時の最新モデルの「iPhone(アイフォーン)」を片手に各国を歩いた。このスマートフォンで写真を撮ると、地図アプリ上の撮影地に自動でピンが刺さっていく。アフリカでその機能に気付いたとき、既にピンの列は地球を半周していた。「世界を制覇していくような感覚で面白くなった」という小嶌は、行く先々で写真を撮らないと気が済まなくなっていた。理屈っぽい自分が、何を得るでもなくただ「マップの上にピンを刺していくこと」を楽しみ、喜びを感じている。この「ゲーム感覚」と「見える化」は生かせる気がした。

 もう一つ、脳裏に焼き付いていたのが、アマゾンの奥地にまで「ポイ捨て」されたチョコレートの包装が落ちていたこと。「同じゴミでも、自治体や企業などが収集して処分する領域を『メジャーリーグ』だとすると、ポイ捨て問題は競合が少ない『マイナーリーグ』」。小嶌はそう考えた。

 マッピング、ゲーム性、そしてポイ捨てゴミ。半ば強引だとは思いつつ、これを組み合わせて事業を興すことに決めた。計2年の休学の末に大学院を中退。退路を断って開発したのが、ゴミ拾い専用SNS(交流サイト)「ピリカ」だった。

 だが、とても「ビジネス」と言えない状況が続いた。(次回に続く)

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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