旦旦的廿年(タンタンの20年)
土ぼこりをあげながら、でこぼこ道を進む。
中国・四川省の空港から車で約3時間。長江の支流をいくつも越え、ダムの向こう、山の奥へと入っていく。
1999年の11月頃。当時の神戸市立王子動物園園長、大久保建雄(77)は、臥龍(がりゅう)自然保護区にある中国パンダ保護研究センターにたどり着いた。
標高1600メートル。周囲を5千メートル級の険しい山々と寒冷湿潤な竹林に囲まれた小さな谷間に、センターはあった。
コンクリートと鉄のおりでできた無機質な獣舎。全部で十五、六頭のジャイアントパンダがいた。主にほかの動物に襲われたり、崖から落ちたりしてけがをし、保護された野生の個体だという。治療で元気になれば再び山に返すための施設で、繁殖研究もしていた。
大久保の目的はただ一つ。中国から借りるパンダを、自分たちで選ぶことだった。
95年の阪神・淡路大震災で被災した神戸市民や子どもたちを勇気づけたいと、中国に猛アタックして取り付けた借り受け契約の、大詰めである。
「普通、中国はパンダを貸すとき、相手に個体を選ばせることはないわけですよ」と振り返る大久保。「ただ、こっち(神戸)も10年計画の繁殖研究に取り組むという立場だから、当然、それに適したパンダがほしい。異例ではあったけれど、こちらの要望を聞き入れたんじゃないでしょうか」
とはいえ、中国側も「どれでもお好きに」とはいかないようだった。推薦という名のもと、3組のペアが用意されていた。
1組目は、性成熟した10歳前後のペア。2組目はさらにもう少し歳がいった、出産を経験済みのペアだった。
「これじゃあ『もう既に繁殖しとるやないか』と突っ込まれるわな」と、最年長組は見送った。通常は雄なら6歳半から7歳半、雌なら3歳半~4歳半で性成熟するため、10歳前後で実績がないのも不安に感じた。
冷静に考えると「事実上、選択の余地はなかったに等しい」と笑う大久保。残すはこのセンターで生まれ育った性成熟していない3、4歳のペアだけだった。
同行してくれた動物繁殖の専門家も同じ意見だった。「そりゃ、若い方が楽しみも多い」と、結論が出るのに時間はかからなかった。
繁殖の適性は未知数だが、だからこそ繁殖研究にはふさわしいとも言える。
神戸側の「希望」が通り、「チンズー(錦竹)」「スウァンスウァン(爽爽)」と呼ばれたそのコンビが翌年、神戸にやってくることが決まった。
=敬称略=(井上太郎)
2022/8/19-
(37)マイ竹林 好物のタケノコ園内栽培
-
(36)最高齢 「普段通り」の飼育大切に
-
(35)ついに… 歩幅に合わせ、手作り階段
-
(34)寝正月 寝台の上でのんびり
-
(33)ようこそ神戸へ【下】名前公募、最多は「短短」だった
-
(32)ようこそ神戸へ【中】3組のペアから自分たちで選ぶ
-
(31)ようこそ神戸へ【上】「震災復興にパンダを」市が誘致
-
(30)国内のメスで最高齢 今秋27歳、人間なら80代
-
(29)パンダの骨格 ARアプリで観察体験
-
(28)今年もよろしく 契約延長で穏やかな1年に
-
(27)昼夜逆転? 観覧再開も夜更かしに
-
(26)圧タン 飼育員に「リンゴちょうだい」
-
(25)有給休暇 体調万全の観覧再開期待
-
(24)続・パンダ団子 保存しやすい「四角」に
-
(23)入る入る詐欺 体調回復し、悪知恵発揮
-
(22)パンダ団子 投薬治療で数年ぶり復活
-
(21)13年前の出産(下) 母性の強さ行動で示す
-
(20)13年前の出産(中) 雄のコウコウも死ぬ
-
(19)13年前の出産(上) 3日後に死んだ赤ちゃん
-
(18)心臓疾患 帰国の時期、不透明に
-
(17)飼育員の思い 自然な動き活用し健診
-
(16)健診訓練 失敗すれば頭抱え悩む
-
(15)腹時計 1日6回正確に反応
-
(14)公式ツイッター 人気画像は飾らない表情
-
(13)初対面 パンダ記者になります