旦旦的廿年(タンタンの20年)
2000年7月16日夜、神戸市立王子動物園前に、1台のトラックが止まった。
静まりかえる園内とは対照的に、入場ゲートの外には人だかり。荷台から箱形のおりが二つ下ろされると、市民が拍手喝采で迎えた。
「営業時間外にあれだけにぎやかになるなんて、後にも先にもこのときだけ」と、当時の園長、大久保建雄(77)が懐かしむ。
隙間からチラリと見える白黒の動物に、無数の歓声が飛んだ。「タンタン!」「コウコーウ!」「こっち向いてー」
中国から来たジャイアントパンダ2頭の名前は公募で決まった。応募総数は約4600件。ただ決定過程は少しイレギュラーになった。
「実は、単純な多数決なら、メスは『短短』になってました」。大久保が明かす。
タンタンの中国名は「爽爽」と書いて「スウァンスウァン」と読む。当時、既に国内でパンダを飼育していた上野動物園やアドベンチャーワールドでは、中国での名前をそのまま使っており、名前の公募自体が異例だった。
来日が決まり、「市民に親しまれるように自分たちで名付けたい」と神戸側が求めると、中国側も「正式な登録名は変えられないが、愛称であれば構わない」と応じたという。
公募に当たって、市民が名前を考える際の参考になるよう、2頭のパンダの簡単なプロフィルを園が公表。メスは丸っこい体形がぬいぐるみのようなので、「ちょっと脚が短い」と書き添えてみた。どうやら、それが影響したらしい。
「響きはかわいいが、由来が外見だけというのも…」。悩んだ大久保たちは、「タンタン」の読み方を残しつつ、漢字表記は少数ながら投稿のあった「旦旦」を選んだ。
ちょうど20世紀が終わり、21世紀を迎える。震災を経験した市民にとって、夜明けを意味する「旦」なら縁起が良い。「パンダが神戸にやってきた意味を伝え続けるのにもふさわしい」と考えたのだった。
ちなみに、オスの初代コウコウも最多は「幸幸」で、同じ読み方で神戸にちなんだ「神神」もあったが、こちらも復興から取った「興興」に落ち着いた。
大久保は2005年に退職した。中国への返還(後に延期)が発表された20年秋、お別れのつもりで動物園を訪れると、タンタンは屋内獣舎にある体重計のそばで寝そべっていた。
「若い頃に比べると、あまり動かんようになったな、という印象ですね」。相変わらず脚は短くてチャーミングだが、滞在期間は「短短」にならなくて良かった。
「古里の記憶も薄れただろうし、輸送で体に負担がかかるのも心配。これからもずっと神戸で過ごせたらタンタンのためにもなるし、私たちもうれしいよね」
=敬称略=(井上太郎)
2022/8/20-
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