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山下春幸さんが料理人の第一歩を踏み出した阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」=神戸市東灘区御影本町4
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山下春幸さんが料理人の第一歩を踏み出した阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」=神戸市東灘区御影本町4
山下春幸さんが料理人の第一歩を踏み出した阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」の店内=神戸市東灘区御影本町4
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山下春幸さんが料理人の第一歩を踏み出した阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」の店内=神戸市東灘区御影本町4
山下春幸さんが考案し、今も人気メニューとして残る「香港焼きそば」(手前)、「鶏じゃが煮」(左奧)、「ピリ辛ちくわ」(右奧)=神戸市東灘区御影本町4、居酒屋「なだ番」
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山下春幸さんが考案し、今も人気メニューとして残る「香港焼きそば」(手前)、「鶏じゃが煮」(左奧)、「ピリ辛ちくわ」(右奧)=神戸市東灘区御影本町4、居酒屋「なだ番」
阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」で料理人の道を歩み始めた山下春幸さん(ウオーターマーク提供)
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阪神御影駅前の居酒屋「なだ番」で料理人の道を歩み始めた山下春幸さん(ウオーターマーク提供)

 世界を股に掛けるトップシェフ、山下春幸さん(52)は、阪神御影駅南の居酒屋「なだ番」創業者の息子として、この厨房(ちゅうぼう)で料理人としての第一歩を踏みだした。店舗経営や海外のレストラン勤務をへて、なだ番に戻っていた20代後半の山下さんはある日、常連客にお任せの一品を注文される。自信たっぷりに出したカルパッチョ風の刺し身だったが、客は一切れ食べただけで箸を置いた。(文中敬称略)

(井上太郎)

■「お客のニーズ」の原体験

 「ものとしてはうまいけど、違うなあ」。客から戻された皿を見て、理由を考えた。何が違ったんだろう。おいしいのなら、なぜ全部食べてくれないのだろう。分からないし、ショックだった。

 口調こそ穏やかだったが、その客ははっきり言った。「君が作りたいことは分かる。けど、俺が食いたいのはこれじゃない」

 答えは明快だった。その客は、刺し身を普通にしょうゆとわさびで食べて一日の疲れを癒やしたいと思って居酒屋に来ている。だが自分は、ちょっとこんなことを勉強した、こんなのを食べてほしいからという気持ちでカルパッチョを出してしまった。

 「魚の鮮度としては一級品。うまいのはうまいんです。けど、人ってあるじゃないですか。『あのギョーザが食いたいな』と思って、電車乗ってわざわざ来てみると、ギョーザが小籠包(ショウロンポウ)になってて、いやいや、それもうまいけど、俺はギョーザの、焼いた皮のぱりっとした感じが食べたくてきょうは来てるのに、どうして小籠包出してくるんだ、みたいな」

 作り手の独りよがりを痛感した。食べてほしいという気持ちがどれだけあっても、お客さんのニーズに合わなかったら、真っ向から否定される。この出来事は、料理を、サービスを、客観的に考え抜くようになった原体験として、山下の胸に深く刻まれた。

■父から学んだ「ある一つの法則」

 なだ番は「東灘で知らない人がいないぐらい」繁盛していた。だが、血気盛んで、いろんなことを試したい山下と父はことあるごとに衝突した。それでも、新しいメニューを次々と考え、座席の間隔にゆとりを持たせて空間の雰囲気を変えるなど、先進的な店づくりを進め、女性客が一気に増えた。

 夜中に仕事が終わると、大阪や和歌山といった県外の評判の店に従業員を連れ出すこともしょっちゅうだった。研究熱心というレベルを超えていた。食べたいものを見つけたら必ずそこに行って食べ、人気の理由を探る。山下は独学で料理の腕を磨きつつ、父のもとで商売の基礎を固めていった。父は料理だけでなく居心地、価格、衛生面、全てに厳しかった。

 「レストランでも居酒屋でも、お客さまに対する飲食業、サービス業の根底は一緒なんです。三つ星レストランだろうが、お好み焼き屋だろうが、ラーメン屋だろうが同じ。ある一つの法則にのっとってる。それが要するに、はやってるお店。逆にはやってない店はだいたいその一つの法則から逸脱している店が多い。僕は父の店でそういうところをたたき込まれた」

 その法則に挙げるのが「お客さま第一主義」だ。おいしいものを、できたてのものを、という当たり前のことを「実装、実行してきちんと継続できている店は本当に少ない」と山下は言う。

 山下は33歳で独立し、神戸・元町にレストラン「NADABAN DINING」をオープンする。厳しかった父のやり方を実践すると、それが正しかったと実感した。「大変でしたけど、御影で学んだその法則のおかげでうまくいったというのは、あるでしょうね」

 山下は元町に出店した4年後の2007年、東京・六本木の「東京ミッドタウン」に「HAL YAMASHITA(ハル ヤマシタ)東京」を出店する。それを機に、「新和食」という新しいジャンルを切り開く。

 そして、勢いに乗り始めた山下を世界に押し上げることになるドイツ人、ピーター・ニップが山下の店にやってきた。

<連載>御影駅前「なだ番」から世界へ・ハルヤマシタの挑戦

(1)原点 野心胸に居酒屋で独学

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/

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