• 印刷
「HAL YAMASHITA東京」の人気メニュー「神戸牛雲丹巻」(ウオーターマーク提供)
拡大
「HAL YAMASHITA東京」の人気メニュー「神戸牛雲丹巻」(ウオーターマーク提供)
「新和食」と呼ばれる、食材にこだわったメニューをそろえた「HAL YAMASHITA東京」のホームページ
拡大
「新和食」と呼ばれる、食材にこだわったメニューをそろえた「HAL YAMASHITA東京」のホームページ
神戸・元町に構えていた「NADABAN DINING」(ウオーターマーク提供)
拡大
神戸・元町に構えていた「NADABAN DINING」(ウオーターマーク提供)

 阪神御影駅南の居酒屋「なだ番」で料理人としての第一歩を踏みだし、東京進出を経て、2010年に世界的な美食の祭典「ワールド・グルメ・サミット(WGS)」で最高賞に輝いた山下春幸さん(52)。12年にも出場して再び最高賞に輝き、グローバルシェフとしての階段を駆け上がった。山下さんが確立した「新和食」とは何なのか。(文中敬称略) 

(井上太郎)

■日本料理と和食の違い

 山下が初めて自分の店を持ったのは神戸・元町の「NADABAN DININNG」。2003年、元町駅前の雑居ビル8階にオープンした。神戸のデザイナーズレストランの走りとして評判を呼び、東京・六本木にできる巨大複合商業施設「東京ミッドタウン」の開発業者の目に留まった。

 旧防衛庁跡地に建設され、美術館やホテル、オフィスに130の店舗、410戸の住居が入る。総事業費約3700億円。巨大プロジェクトのグランドオープンに合わせた出店要請を受け、2007年3月、「HAL YAMASHITA(ハルヤマシタ)東京」がオープンする。

 ここで小さな問題が起きた。館内の看板やパンフレットで店を紹介する際、どう説明するかだ。山下は「ハルヤマシタは人の名前なので『これは一体何屋なんだ』となる。日本料理かと言われると違う、じゃあ洋食かといったら洋食でもない。フレンチでもイタリアンでもない。『創作料理』も『嫌だ』と言って、なかなか決まらなかった」と振り返る。

 そうしているうちに疑問がわいた。「日本料理と和食の違いって何なんだろう」。

 「家の料理ってよく考えると、めちゃくちゃじゃないですか? ご飯があって漬物があって、と思ったらハンバーグがあって、横にはおひたしみたいなのとみそ汁があって。日本料理みたいに、天ぷらがあってお寿司が出てくるとかそういう形式はない。それってなんか『和食』やんと」

 そのテイストを「最高の素材でちゃんとした料理人が作ったらどうなるだろう」という発想から出てきた言葉が、「新和食」だった。

■「引き算」の料理

 山下は「素材の味を最大限引き出す」という信念を込め、新和食を極めた。調理は至ってシンプル。肉も魚も野菜も、他店ではありえない水準まで原価を高めて最高の食材を調達し、真空調理や冷凍の技術を駆使する。「創作料理」が何かを積み重ねる料理なら、「新和食は引き算」だと山下は言う。例えばトマトなら、畑で食べるもぎたてのトマトの味を超えることがその目指すところだと。

 当時37歳。この考えの源をたどると、料理人のキャリアを「遠回り」していた大学時代に行き着く。

 「通っていたのが芸術大学だったので、『究極の美』や『究極の造形』についていろいろ研究しました。例えば文章は、長く書く方が楽。めちゃくちゃ短く『1行でまとめろ』と言うと、これが難しい。料理も同じで、いろいろ創作しようと思うと訳のわからない料理ができるけど、食材を丸裸にして『素材の味のど真ん中』をシンプルに出すのが実は難しい」

 「余分なものを徹底的にそぎ落として、ある1点だけに集中するという禅の考え方です。宗教とはまた違う、よろずのものに感謝する日本人の精神性にもつながる。海外の人にも一目置かれる、そういうものを料理に表現したかった」

 上京後は「奇才の和食料理人」としてテレビや雑誌への露出も増えた。WGSで最高賞に輝いた後は、米国やシンガポールにも出店。現地の食材と和食をミックスさせる新和食を実践する。

 そんな中、未曽有の事態が世界の飲食業界を襲った。2020年に始まった、新型コロナウイルス禍。飲食店に対する休業、時短営業の要請、酒類提供の禁止が繰り返される。逆風の中、山下は兵庫県で新たな取り組みを始めた。(次回に続く)

<連載>御影駅前「なだ番」から世界へ・ハルヤマシタの挑戦

(1)原点 野心胸に居酒屋で独学

(2)覚醒 身に染みた常連客の一言

(3)チャンス 「お前はやる気があるのか」

(4)試練 重鎮にも貫いた料理哲学

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/

東灘話題ひと・東灘魂
もっと見る
 

天気(9月6日)

  • 34℃
  • ---℃
  • 0%

  • 35℃
  • ---℃
  • 0%

  • 35℃
  • ---℃
  • 0%

  • 37℃
  • ---℃
  • 0%

お知らせ