骨董漫遊
前回に続き、出石焼の籠目の作品について書く。
平凡社の別冊太陽「明治の装飾工芸」を読み、「白磁籠目花鳥貼付飾壺(はくじかごめかちょうはりつけかざりつぼ)」に心を奪われてから数年後、豊岡市出石町の骨董(こっとう)店で、竹で編んだような籠目が美しい花瓶(縦17センチ、横12センチ)に巡り合った。こちらは「白磁籠目菊花貼付花瓶」という。
細工は簡略化され、ずっと小ぶりではある。それに上部が割れ、細工の「貼付」の花の一部が取れていた。
店主に聞くと「盈進社(えいしんしゃ)製か、その流れをくむ陶工の作品で貴重なもの」という。
盈進社は明治政府の後押しで、出石に誕生した磁器製造会社だ。納得して、3万円を支払った。
その後も、骨董市などで籠目の花瓶を見つけるたびに購入し、同じような形のものを計4点も買ってしまった。
最初に完全な姿の作品に出合っていれば、1点で終わっていただろう。後に買い求めた3点も、それぞれに傷や欠損があり、どれも愛(いと)おしく思われたのだ。
うち1点には「産地不明 キズモノ300円」の値札が付いていた。あまりに不当な評価に、怒りにまかせて買った。それにしても、なぜ「籠目」なのだろうか。
鳥や花などの細工(貼付)は、ドイツのマイセンの焼き物などにある。同様に籠目も、明治の文明開化でもたらされた西洋の陶芸技法なのでは、と推測していた。
だが、4年前に姫路の県立歴史博物館で開催された特別企画展「出石焼」を見て、目からうろこが落ちた。
前回、紹介した出石神社と出石明治館の籠目の花瓶が展示され、その横に豊岡の伝統工芸、杞柳(きりゅう)製の行李(こうり)が並んでいた。
焼き物の籠目は、この行李の編み目に着想を得て作られたらしい。豊岡ならではの宝だったのだ。
「白磁籠目花鳥貼付飾壺」などの作品のいずれかは近い将来、国の文化財に指定されるに違いない。そう信じている。
◇
さて、兵庫陶芸美術館(丹波篠山市)で開催される出石焼展「但馬の小京都で生まれた珠玉のやきもの」(同美術館・神戸新聞社主催)に、私の収集作品の中から4点を貸し出すことになった。
会期は9月12日から11月29日まで。展示総数は約150点で、過去最大規模となる。
出石焼は“雪よりも白い”と表現される白磁が特徴で、天明4(1784)年に地元の豪商が、窯を開いたのが最初とされる。
今回は、始まりから明治時代までに製作された染付や色絵、白磁に焦点をあて、関連資料とともに紹介。私が魅せられた超絶技巧の技術に迫るほか、東京や石川の博物館・美術館が所蔵し、県内初公開の作品がある。
機会があれば、ぜひ足を運んでいただきたい。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)
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