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骨董漫遊

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骨董店主に「桃山くらいはある」と言われて買った織部焼の向付(むこうづけ)。水漏れするのを、米のとぎ汁で抑え使用している
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骨董店主に「桃山くらいはある」と言われて買った織部焼の向付(むこうづけ)。水漏れするのを、米のとぎ汁で抑え使用している
神戸新聞NEXT
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神戸新聞NEXT

 今回から、2015~16年に電子版の神戸新聞NEXT(ネクスト)で配信した連載「骨董遊遊(こっとうゆうゆう)」の原稿に加筆して、お届けしたい。

 欧米では、アンティークの定義を一般的に「製造された時点から100年を経過した手工芸、美術品」とする。アンティーク=骨董品とすれば今から100年前、つまり1921(大正10)年以前のものとなり、明治時代の品は文句なしの骨董品だ。だが、私が知る限り、「骨董といえば、やっぱり江戸期までのもの。明治ものは買う気がしない」と口にする愛好家は多い。

 だからだろう。骨董店主に「これ、いつごろのものですか」と尋ねると、「まぁ、幕末くらいはあるよ」という返事がよく返ってくる。

 この「幕末くらい」という言葉は「幕末のころにつくられた」との意味だが、知人の店主によれば「店主が幕末か明治か、迷ったときは大抵、幕末と言うはず。和骨董の世界では、幕末と明治の間には大きな河が流れている。骨董は文明開化の匂いがしてはいかんのよ」となる。

 うまいことを言うものだ。

 和骨董をめぐる時代の“大河”はもう一つ、「桃山」と「江戸」の間にも存在する。

 「桃山くらい」となれば、「幕末」と「明治」以上に価値に差が生じるからである。

 骨董店に通い始めたころ、店でよく耳にする「桃山」について、私は日本史の年表の通り、安土桃山時代(1573~1603年)の30年間のことと思い込んでいた。ある日、織部焼(おりべやき)の本に「桃山時代(17世紀)」の表記が頻出するのを不思議に思い、知人の店主に尋ねてみた。

 「17世紀の桃山時代はたった4年間なのに、織部の名品がたくさん製作されたんですね」。店主は大笑いして、こう言った。「骨董の世界で桃山とは、安土桃山時代の作風が残る作品を指す。『桃山時代(17世紀)』とあれば、実際は『江戸初期』だな」

 早速、図書館で調べてみると、美術史の本に「豊臣氏滅亡までを『安土桃山時代』と称するのが一般的」と書かれていた。そうか、大坂夏の陣があった1615(慶長20)年までが「安土桃山」か。

 骨董も古美術というぐらいだから、美術史に準じているのだろうと納得した。

 後日、同じ店主とその話をした。すると「違う。骨董の桃山はもっと長い」という。

 ??? 「美濃にある織部焼の元屋敷窯は元和(げんな)年間まで稼働していた。その次の寛永期に入るころまでは、桃山と言っていい」

 思わず、「うそ!?」と叫んだ。

(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)

2021/5/17
 

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